またあなたに会えるなら、この花が咲く庭で。

あの地理教師から、タガログ語を聞いておいて正解だった。なかなか世渡りの上手い教師だ。

「⸻っ!にいさーん!」
「うるさいぞ!」

はあ、こいつのそばでは熟睡ができん。

まあ、嫉妬と妬みの視線を浴び続けるより、こいつといる方が、合理的だが。

戦闘疲労の幻覚症状。

白いワンピースの女の子が見えるとか言ってたな。

その子が自分を助けてくれた、と。

しかし。

「⸻っ!お前が兄さんを殺したんだ!」
「だから!うるさいぞ!」

はあ。

…月明かり、か。


今夜は満月だったのか。


Moonlight Serenade.


若きウェルテルの悩み。

紙を巻いてきて良かった。


⸻お嬢さん。

◇ ◇ ◇

「すみません」

俺は男爵夫人に言った。

「どうされました?」

「お嬢さんの写真を一枚頂けませんか?」

「ええ。よろしいですよ」

男爵邸前で撮られた写真。

ご令嬢の立ち姿でない。
自然なお嬢さんの写真だった。

「ふふ、あなたにはこちらの方が良いかと。…あの子に伝えますか?」

「⸻いいえ」

◇ ◇ ◇

そうして、お嬢さんの写真を持ってきた。

ドイツ語版なら誰も開きもしない。

あいつも寝たみたいだ。

やっと俺も寝られる。


◇ ◇ ◇


あいつ、今日はやけに騒がしいな。

はぁー。

「おい!静かにしろ!」
「全部こいつのせいだ!」

いつの間にか止めるのは俺の係になってしまった。

「そいつ誰と喋ってるんだ!」
隊の先輩兵だ。俺も何度も世話になっている。
「白いワンピースを着た女の子です」
「いいなあ、幻覚でいいから俺にも見せてほしいぜ」

体力はこいつの方が上だから、下手に触ると俺が怪我をする。

幻覚を止める術はない。

ん?


「……すまない。君を人殺し呼ばわりして。俺を助けてくれたのは君だ。そして、兄さんたちを助けられなかったのは、俺だ」

⸻こいつの幻覚はまるで、本当にいるかのような。

まあそれを幻覚と呼ぶのだろうが。

「総員、集合!」

おっ、もうそんな時間か。

はあー。

「おい、立て。集合命令だ」

「ゲーテ、君は本当に優しいやつだな」

「集合命令だから早く立て!」

まったく。