「実花さん! どうか付き合ってください!」
デートするにはレンガ倉庫は月並みだと思いつつ海を眺めればいい感じの春の夕暮れ、と思っていたのに榎並宗吾が唐突にそう叫んでガバっと頭を下げた時、頭の中にいろんなワードが飛び出した。
えなんで今、めっちゃ注目集めてるし。
でも目の前に突き出された小さなリュック、そうこれは欲しかったやつ。
夕陽のせいかそのままの色なのか顔が真っ赤な宗吾がなんかかわいくて、なんだか自分も赤が伝染したようで。
それにしても今どきリアルで告るなんて古風すぎるっしょ。まじか。
えっとでも、私は総合的に、断然オッケーだった。だって私も、宗吾のことをいいなって思ってたから。や、っていうか実際天パ気味な前髪がくるくると巻いてる間から不安そうに私を見るその瞳が、なんかゴールデンレトリバーっぽいっていうか、ドキッとする。
「僕の鞄が一番似合うのはあなたなんだ」
私と宗吾のもともとの関係は、宗吾が本職の革職人で、私がお客さんだから。お店の前で展示された淡いブルーのウエストポーチがすごく気に入って、今もつけている。
いやでもそれよりこんなプロポーズじみた言葉に周りの視線がにやにやと突き刺さって、だから建物の影まで宗吾を引っ張って、きょとんとした宗吾に私がかけるべき言葉って、だから。
「えっと、いいよ」
「本当?」
「う、うん」
その瞬間、宗吾はまっすぐに私を見て、それでこの世で一番幸せ、みたいな感じで笑う。それでなんだか私もつられてうれしくなった。そういえばデートももう3回目で、そういえば告るなら丁度いい気もするし。
「じゃあ早速これ着てください!」
そうして期待に満ちた目で、小さめなリュックを私に押し付ける。私に似合う鞄。
淡いベージュにダークブラウンの縁取りのあるシンプルで上品な革のミニリュック。でも細いショルダーストラップに細かく入れられたカービングの模様と、刻まれた榎並鞄製作所のロゴタグに、それから実花の名前が彫り込まれているのを見て、ドキッとした。宗吾が作ってる時にこういうリュックかわいいなって私が呟いた。
つまりあの時から私のためだけに作られたリュック。
重い。
自作のプレゼントってちょっと重い。オーダーメイドと考えてもそれなりに高価なお品で、でも付き合ったんなら、いいよねって感じでプライオリティにおちついた。だって名入りなんだし。
「はやくはやく」
「えちょっと」
追い立てられるように背負うと、やっぱり宗吾は最高だって感じでほほ笑むんだ。なんだか今まで見た中で一番のイイ笑顔のような?
「最高に似合う! これ実花さんのために作ったんだ」
なんだか照れるなぁ。
「その服にもばっちり」
そう思えば今日着てきた淡いグリーンのウィンドブレーカには絶妙にあった色合い。
「何、私が今日これ着て来るってわかってたの?」
冗談気味に尋ねると宗吾はいつも肩にかけている大きめの鞄をまさぐり、チャコールな四角くかっちりしたけど薄いショルダーバッグを取り出す。
「青いジャケットの時はこっちをプレゼントしようと思ってた。あれにはこっちだよね。あっち着る時はこっちつかって」
「ん? うん」
私がこの時期着てるのはこのウィンドブレーカか、青のジャケット。そして青のジャケットの背中にはこのバッグはとても似合うだろう。丁度私がいつも使っているバッグと容量としては二つとも同じくらい。
「2つだと重いからさ。こっちは今度改めてプレゼントするよ」
ショルダーバックは宗吾の大きな鞄にしまわれる。まあ鞄二つ持つのは確かに何か変。ショルダーバックを含めると三つになっちゃうし。
三つ……? 鞄を二つもプレゼントするか? というか断られたらどうするつもりだったんだろう。あっちもきっと、私の名前が彫られてる。
けど宗吾は私が小さなリュックを背負うのを、満足そうに眺めていた。急に強い海風が吹き、ウィンドブレーカのすそをはためかせる。背中にフィットしたリュックがいい感じにおさえになってる。確かになんだか丁度いい感じで、ウエストポーチも折りたたんでリュックに入れる。
「やっぱり僕の鞄が一番似合うのって実花だ」
「ありがと」
その時の私は宗吾が何を見ているのか、もっと気を付けていればよかった。自分の作ったものを着てほしい。自分の作った料理を食べてほしい。それはきっと自然なことだから。だからちょっとした独占欲とか、そういうものかと思っていて、だから気が付かないままキスをした。初めてのキス。せっかくだし。夕暮れでやっぱり真っ赤な宗吾のほっぺたに触れながら。
その後宗吾と同年代の職人仲間にも祝ってもらって、部活みたいに仲がいいなと思いつつ、宗吾が誰かと付き合うなんて初めてだって言われた。いつもすぐ振られるから、長続きしてほしいって。
その言葉の意味が最初はわからなかった。
でも何かおかしいな、と思ったのは割とすぐだった。その頃には既に、宗吾をすっかり好きだった。だからその差に耐えられなくなって、結局別れることにしたんだ。
デートするにはレンガ倉庫は月並みだと思いつつ海を眺めればいい感じの春の夕暮れ、と思っていたのに榎並宗吾が唐突にそう叫んでガバっと頭を下げた時、頭の中にいろんなワードが飛び出した。
えなんで今、めっちゃ注目集めてるし。
でも目の前に突き出された小さなリュック、そうこれは欲しかったやつ。
夕陽のせいかそのままの色なのか顔が真っ赤な宗吾がなんかかわいくて、なんだか自分も赤が伝染したようで。
それにしても今どきリアルで告るなんて古風すぎるっしょ。まじか。
えっとでも、私は総合的に、断然オッケーだった。だって私も、宗吾のことをいいなって思ってたから。や、っていうか実際天パ気味な前髪がくるくると巻いてる間から不安そうに私を見るその瞳が、なんかゴールデンレトリバーっぽいっていうか、ドキッとする。
「僕の鞄が一番似合うのはあなたなんだ」
私と宗吾のもともとの関係は、宗吾が本職の革職人で、私がお客さんだから。お店の前で展示された淡いブルーのウエストポーチがすごく気に入って、今もつけている。
いやでもそれよりこんなプロポーズじみた言葉に周りの視線がにやにやと突き刺さって、だから建物の影まで宗吾を引っ張って、きょとんとした宗吾に私がかけるべき言葉って、だから。
「えっと、いいよ」
「本当?」
「う、うん」
その瞬間、宗吾はまっすぐに私を見て、それでこの世で一番幸せ、みたいな感じで笑う。それでなんだか私もつられてうれしくなった。そういえばデートももう3回目で、そういえば告るなら丁度いい気もするし。
「じゃあ早速これ着てください!」
そうして期待に満ちた目で、小さめなリュックを私に押し付ける。私に似合う鞄。
淡いベージュにダークブラウンの縁取りのあるシンプルで上品な革のミニリュック。でも細いショルダーストラップに細かく入れられたカービングの模様と、刻まれた榎並鞄製作所のロゴタグに、それから実花の名前が彫り込まれているのを見て、ドキッとした。宗吾が作ってる時にこういうリュックかわいいなって私が呟いた。
つまりあの時から私のためだけに作られたリュック。
重い。
自作のプレゼントってちょっと重い。オーダーメイドと考えてもそれなりに高価なお品で、でも付き合ったんなら、いいよねって感じでプライオリティにおちついた。だって名入りなんだし。
「はやくはやく」
「えちょっと」
追い立てられるように背負うと、やっぱり宗吾は最高だって感じでほほ笑むんだ。なんだか今まで見た中で一番のイイ笑顔のような?
「最高に似合う! これ実花さんのために作ったんだ」
なんだか照れるなぁ。
「その服にもばっちり」
そう思えば今日着てきた淡いグリーンのウィンドブレーカには絶妙にあった色合い。
「何、私が今日これ着て来るってわかってたの?」
冗談気味に尋ねると宗吾はいつも肩にかけている大きめの鞄をまさぐり、チャコールな四角くかっちりしたけど薄いショルダーバッグを取り出す。
「青いジャケットの時はこっちをプレゼントしようと思ってた。あれにはこっちだよね。あっち着る時はこっちつかって」
「ん? うん」
私がこの時期着てるのはこのウィンドブレーカか、青のジャケット。そして青のジャケットの背中にはこのバッグはとても似合うだろう。丁度私がいつも使っているバッグと容量としては二つとも同じくらい。
「2つだと重いからさ。こっちは今度改めてプレゼントするよ」
ショルダーバックは宗吾の大きな鞄にしまわれる。まあ鞄二つ持つのは確かに何か変。ショルダーバックを含めると三つになっちゃうし。
三つ……? 鞄を二つもプレゼントするか? というか断られたらどうするつもりだったんだろう。あっちもきっと、私の名前が彫られてる。
けど宗吾は私が小さなリュックを背負うのを、満足そうに眺めていた。急に強い海風が吹き、ウィンドブレーカのすそをはためかせる。背中にフィットしたリュックがいい感じにおさえになってる。確かになんだか丁度いい感じで、ウエストポーチも折りたたんでリュックに入れる。
「やっぱり僕の鞄が一番似合うのって実花だ」
「ありがと」
その時の私は宗吾が何を見ているのか、もっと気を付けていればよかった。自分の作ったものを着てほしい。自分の作った料理を食べてほしい。それはきっと自然なことだから。だからちょっとした独占欲とか、そういうものかと思っていて、だから気が付かないままキスをした。初めてのキス。せっかくだし。夕暮れでやっぱり真っ赤な宗吾のほっぺたに触れながら。
その後宗吾と同年代の職人仲間にも祝ってもらって、部活みたいに仲がいいなと思いつつ、宗吾が誰かと付き合うなんて初めてだって言われた。いつもすぐ振られるから、長続きしてほしいって。
その言葉の意味が最初はわからなかった。
でも何かおかしいな、と思ったのは割とすぐだった。その頃には既に、宗吾をすっかり好きだった。だからその差に耐えられなくなって、結局別れることにしたんだ。



