愛斗は図書館で借りてきた、乳がんについて詳しく書かれた本を開き、一文字一文字、心を込めて読み進めていた。
そのとき、玄関の鍵が開く音がした。未稀が帰ってくる。愛斗は慌てて本を後ろに隠した。
「ただいま」
「おかえり、未稀さん」
未稀がそっと近づいてくる。
「何を見てたの? 隠したりして」
「な、何も見てないよ。ただ、ぼーっとしてただけだから」
愛斗は笑顔を浮かべて、何もなかったように誤魔化した。
それからしばらくして、愛斗がトイレに立ち、戻ってきてカフェオレを机に置こうとしたとき、隠していた本が袖に引っかかり、そのまま床に落ちてしまった。
開いた状態で落ちたそのページを、未稀がそっと手に取った。
ページの端には、愛斗の字で「未稀さんのために、ちゃんと知っておきたい」と書き込まれていた。
未稀は胸がいっぱいになり、そっと本を机に置くと、愛斗を見つめて言った。
「ありがとう……こんなに、私のことを想ってくれてたなんて」
愛斗が近づくと、未稀はそっと唇を重ねた。優しくキスを交わし、愛斗は彼女を強く抱きしめた。
「愛斗くん……見てほしいことがあるの」
未稀はゆっくりと服を整え、左胸がないことを愛斗に見せてくれた。
愛斗は一瞬も目をそらさず、そして何も言わずに、もっと強く彼女を抱きしめた。
「怖かっただろう。辛かっただろう。それでも、そのままの未稀さんが、僕は何より愛してる。全部、受け止めるよ」
温かい言葉に、未稀は堰を切ったように涙を流した。嬉しくて、安心して、止まらない涙だった。
次の日、愛斗は仕事へ向かった。楽屋に入ると、庄野真代と石井明美が彼の顔を見て心配そうに声をかけた。
「愛斗くん、目が腫れてるわ。どうしたの? 何かあったの?」
愛斗は少しだけ笑って、昨日のことを話した。
「実は好きな人が、乳がんを経験されていて……少しでも理解したくて、本を借りて勉強してたんです。それで昨日、彼女が自分の胸のことを見せてくれて。僕がそのまま全部受け止めると言ったら、すごく泣いてくれて」
真代と明美は顔を見合わせ、それから優しく愛斗の肩を叩いた。
「そう……よかったわね。未稀さん、本当に安心したと思う」
「あなたのその想いが、彼女に一番届いたのよ。本当に、よかったわ」
愛斗は仕事を終えて家に帰ったが、未稀はコンサートの仕事で留守だ。一人でゆっくりと一日を過ごし、お昼過ぎになってから、ボーカル教室「虹色舎」へと向かった。
約二時間、集中して歌のレッスンを受け、体も心もすっきりとした。その後、亜蘭先生や一緒にレッスンを受けている生徒たちと、近くのお好み焼き屋へと足を運んだ。
店に入って席に着いたところ、扉が開いて明美と真代が入ってきた。二人は愛斗の姿を見つけると、笑顔で近づいてきた。
あら、愛斗くん! こんなところで会うなんて」
「こんにちは、明美さん、真代さん」
「皆さん、こちらは麻倉未稀さんの親友でいらっしゃる庄野真代さんです。」
「未稀の彼氏の末山愛斗といいます。よろしくお願いします」
生徒たちは驚きながらも、慌てて挨拶をした。
「よろしくお願いします!」
明美はにっこりと頷き、愛斗に耳元で教えてくれた。
「そういえば未稀ちゃんは、今日は遠くでコンサートなのよ。夜になったら私たち三人で飲みに行く予定なんだけど、愛斗くんも一緒に来ない?」
「はい、ぜひ行きたいです! 楽しみにしてます」
「よかった。また後でね」
明美と真代は、生徒たちや亜蘭先生にも軽く挨拶を済ませ、奥の席へと移っていった。
二人が去ったあと、隣に座っていた生徒が不思議そうに愛斗に尋ねた。
「愛斗さん、どうしてあんなに有名な石井明美さんと仲がいいんですか?」
愛斗は少し照れくさそうに笑って答えた。
「実は僕、彼女ができたんだ。麻倉未稀さんとおつきあいさせてもらってる。明美さんは、その未稀さんの一番の親友なんだよ」
生徒は目を見開いて、声を上げた。
「えっ、麻倉未稀さんって……あの、伝説の歌手の麻倉未稀さんですか!?」
「うん、そうだよ」
周りの生徒たちも次々と驚きの声を上げ、愛斗の顔を見つめた。温かな祝福の言葉が、次から次へと聞こえてきた。
そのとき、玄関の鍵が開く音がした。未稀が帰ってくる。愛斗は慌てて本を後ろに隠した。
「ただいま」
「おかえり、未稀さん」
未稀がそっと近づいてくる。
「何を見てたの? 隠したりして」
「な、何も見てないよ。ただ、ぼーっとしてただけだから」
愛斗は笑顔を浮かべて、何もなかったように誤魔化した。
それからしばらくして、愛斗がトイレに立ち、戻ってきてカフェオレを机に置こうとしたとき、隠していた本が袖に引っかかり、そのまま床に落ちてしまった。
開いた状態で落ちたそのページを、未稀がそっと手に取った。
ページの端には、愛斗の字で「未稀さんのために、ちゃんと知っておきたい」と書き込まれていた。
未稀は胸がいっぱいになり、そっと本を机に置くと、愛斗を見つめて言った。
「ありがとう……こんなに、私のことを想ってくれてたなんて」
愛斗が近づくと、未稀はそっと唇を重ねた。優しくキスを交わし、愛斗は彼女を強く抱きしめた。
「愛斗くん……見てほしいことがあるの」
未稀はゆっくりと服を整え、左胸がないことを愛斗に見せてくれた。
愛斗は一瞬も目をそらさず、そして何も言わずに、もっと強く彼女を抱きしめた。
「怖かっただろう。辛かっただろう。それでも、そのままの未稀さんが、僕は何より愛してる。全部、受け止めるよ」
温かい言葉に、未稀は堰を切ったように涙を流した。嬉しくて、安心して、止まらない涙だった。
次の日、愛斗は仕事へ向かった。楽屋に入ると、庄野真代と石井明美が彼の顔を見て心配そうに声をかけた。
「愛斗くん、目が腫れてるわ。どうしたの? 何かあったの?」
愛斗は少しだけ笑って、昨日のことを話した。
「実は好きな人が、乳がんを経験されていて……少しでも理解したくて、本を借りて勉強してたんです。それで昨日、彼女が自分の胸のことを見せてくれて。僕がそのまま全部受け止めると言ったら、すごく泣いてくれて」
真代と明美は顔を見合わせ、それから優しく愛斗の肩を叩いた。
「そう……よかったわね。未稀さん、本当に安心したと思う」
「あなたのその想いが、彼女に一番届いたのよ。本当に、よかったわ」
愛斗は仕事を終えて家に帰ったが、未稀はコンサートの仕事で留守だ。一人でゆっくりと一日を過ごし、お昼過ぎになってから、ボーカル教室「虹色舎」へと向かった。
約二時間、集中して歌のレッスンを受け、体も心もすっきりとした。その後、亜蘭先生や一緒にレッスンを受けている生徒たちと、近くのお好み焼き屋へと足を運んだ。
店に入って席に着いたところ、扉が開いて明美と真代が入ってきた。二人は愛斗の姿を見つけると、笑顔で近づいてきた。
あら、愛斗くん! こんなところで会うなんて」
「こんにちは、明美さん、真代さん」
「皆さん、こちらは麻倉未稀さんの親友でいらっしゃる庄野真代さんです。」
「未稀の彼氏の末山愛斗といいます。よろしくお願いします」
生徒たちは驚きながらも、慌てて挨拶をした。
「よろしくお願いします!」
明美はにっこりと頷き、愛斗に耳元で教えてくれた。
「そういえば未稀ちゃんは、今日は遠くでコンサートなのよ。夜になったら私たち三人で飲みに行く予定なんだけど、愛斗くんも一緒に来ない?」
「はい、ぜひ行きたいです! 楽しみにしてます」
「よかった。また後でね」
明美と真代は、生徒たちや亜蘭先生にも軽く挨拶を済ませ、奥の席へと移っていった。
二人が去ったあと、隣に座っていた生徒が不思議そうに愛斗に尋ねた。
「愛斗さん、どうしてあんなに有名な石井明美さんと仲がいいんですか?」
愛斗は少し照れくさそうに笑って答えた。
「実は僕、彼女ができたんだ。麻倉未稀さんとおつきあいさせてもらってる。明美さんは、その未稀さんの一番の親友なんだよ」
生徒は目を見開いて、声を上げた。
「えっ、麻倉未稀さんって……あの、伝説の歌手の麻倉未稀さんですか!?」
「うん、そうだよ」
周りの生徒たちも次々と驚きの声を上げ、愛斗の顔を見つめた。温かな祝福の言葉が、次から次へと聞こえてきた。

