悪役令嬢と言われていますが、誤解を解くのを諦めてしまいました。

レオンの背中が見えなくなると、令嬢たちは再び談笑を始めた。

「王太子殿下もお困りですわね。」
「あんな愛想のない婚約者では、お気の毒ですこと。」

笑い声が耳に刺さる。

これ以上ここにいては、吐き気まで悟られてしまう。

「少し、風に当たってまいります。」

誰に向けるでもなくそう告げると、セシリアは静かに席を立った。
庭園の奥へ足を進めるたび、人の声が遠ざかっていく。
ようやく人気のない木陰へたどり着き、セシリアは小さく息を吐いた。

「……はぁ。」

身体中から力が抜け、その場の石造りのベンチへ腰を下ろす。

そのとき。

「にゃあ。」

足元で、小さな鳴き声がした。

「あなた、また来てくれたのね。」

白い子猫は慣れた様子でセシリアの足元へ寄ってくる。

「今日は少し遅くなってしまったわ。」

そっと抱き上げると、猫は安心したように喉を鳴らした。

「ふふ……。」

今日王宮に来てから初めて、セシリアの頬がわずかに緩む。


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ちょうどその頃。

執務室へ向かう近道として庭園脇の回廊を歩いていたレオンは、不意に聞こえた笑い声に足を止めた。

「……?」

声のする方へ視線を向ける。

すると、

木漏れ日の下。

一匹の白猫を抱きながら、柔らかく微笑むセシリアの姿があった。

「……セシリア?」

レオンは驚く。

あんな表情もできるのか。

思わず見入った、その瞬間。

猫が逃げる。

「あっ……。」

猫がするりと腕を抜け、茂みへ駆けていく。

セシリアは立ち上がると、再びいつもの無表情へ戻ってしまった。

レオンは少し考える。

「気のせい……だったのか。」

首を振ると、そのまま執務室へ向かった。

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猫の温もりが離れると、胸の奥がまたじくりと痛んだ。

「帰りましょうか。」

誰にも聞こえないようにつぶやき、セシリアは静かに歩き出す。

その背中を、夕暮れの風だけが追いかけていた。