「あれ、桐生さんその服どうしたの?」
榎本さんが出社するなり私に向かって声をかけてきた。
「え、どうもしないけど……」
そうは言いつつも今日の私は昨日買ったばかりの新しい服で会社に来ていた。
特に今日が特別な日というわけではない。独身女性のただの気まぐれだ。
「その服、すごい可愛いね」
「そ、そうかな」
「私も思ってました」
隣で長沼さんもキャピっとした声を出す。
長沼さんは意識しなくても可愛い声を出せるから羨ましい。
「桐生さん、何だかお人形さんみたいですよ」
「やめてよ、そんなこと言うの」
デパートで一目見て可愛いなと思ってすぐに買ってしまった。
買ってからこれって私のキャラじゃないかもとちょっと悩んだりもした。
いざお人形みたいと言われると恥ずかしくなってしまう。
そんな私たちの会話が聞こえているのかいないのか、畠中君は黙々とパソコンと向き合っている。
畠中君が私たちの会話に混ざることはほとんどない。
別に畠中君に見せるためにこの服を着てきたわけじゃないけど。
せっかく新しい服をきたんだから一度くらいは畠中君にも見てほしいな。
……なんてことを思ったり。
いやいや、こんなの私のキャラじゃないし。
自分のパソコンに向き合い、引き出しを開く。
その書類の中に畠中君からもらったメモを忍ばせている。
普通ならとっくに捨てていいものなのに、畠中君の文字が書いてあると捨てられない。
手書きの文字には書いた人の思いが込められている。
そう思うとせっかく畠中君が書いてくれた文字を捨てることなんてできない。
やわらかさと芯の強さを感じる不思議な形。
文字を見ているとまるでねっとりと心に張り付いてくるような錯覚に襲われる。
この文字を抱きしめたとしたら、きっと吸盤のように滑らかなんだろうな。
何度見返しても畠中君の文字はうっとりとする。
もっとこの文字に囲まれていたい。
畠中君の書いた文字を私だけのものにしたい。
……って、今は仕事中だから。
職場の誰かにこんなことしているのバレたら超気まずいし。
メモを見ていたのがバレないようにこっそりと引き出しをしまう。
事務所にはパソコンの叩く音や榎本さんが電話で誰かと話す声が聞こえる。
いつもと変わらない職場。いつもと同じ日常。
私はここでいつも通り仕事をするだけだ。
可愛い服を着ても、その事実は変わらない。
私はただの職場の先輩で、畠中君から見たら十も年上のおばさんで、ただそれだけだ。
そもそも私は畠中君がどんな人なのかも全然知らない。
どんな食べ物が好きか、休みの日は家でどんなことをしているのか。
私が知っているのは畠中君がうっとりするほど綺麗な文字を書くことだけだ。
振り向けばすぐに話ができる距離にいるのに。
畠中君は遠く手の届かない場所の住人のように思えてきた。
榎本さんが出社するなり私に向かって声をかけてきた。
「え、どうもしないけど……」
そうは言いつつも今日の私は昨日買ったばかりの新しい服で会社に来ていた。
特に今日が特別な日というわけではない。独身女性のただの気まぐれだ。
「その服、すごい可愛いね」
「そ、そうかな」
「私も思ってました」
隣で長沼さんもキャピっとした声を出す。
長沼さんは意識しなくても可愛い声を出せるから羨ましい。
「桐生さん、何だかお人形さんみたいですよ」
「やめてよ、そんなこと言うの」
デパートで一目見て可愛いなと思ってすぐに買ってしまった。
買ってからこれって私のキャラじゃないかもとちょっと悩んだりもした。
いざお人形みたいと言われると恥ずかしくなってしまう。
そんな私たちの会話が聞こえているのかいないのか、畠中君は黙々とパソコンと向き合っている。
畠中君が私たちの会話に混ざることはほとんどない。
別に畠中君に見せるためにこの服を着てきたわけじゃないけど。
せっかく新しい服をきたんだから一度くらいは畠中君にも見てほしいな。
……なんてことを思ったり。
いやいや、こんなの私のキャラじゃないし。
自分のパソコンに向き合い、引き出しを開く。
その書類の中に畠中君からもらったメモを忍ばせている。
普通ならとっくに捨てていいものなのに、畠中君の文字が書いてあると捨てられない。
手書きの文字には書いた人の思いが込められている。
そう思うとせっかく畠中君が書いてくれた文字を捨てることなんてできない。
やわらかさと芯の強さを感じる不思議な形。
文字を見ているとまるでねっとりと心に張り付いてくるような錯覚に襲われる。
この文字を抱きしめたとしたら、きっと吸盤のように滑らかなんだろうな。
何度見返しても畠中君の文字はうっとりとする。
もっとこの文字に囲まれていたい。
畠中君の書いた文字を私だけのものにしたい。
……って、今は仕事中だから。
職場の誰かにこんなことしているのバレたら超気まずいし。
メモを見ていたのがバレないようにこっそりと引き出しをしまう。
事務所にはパソコンの叩く音や榎本さんが電話で誰かと話す声が聞こえる。
いつもと変わらない職場。いつもと同じ日常。
私はここでいつも通り仕事をするだけだ。
可愛い服を着ても、その事実は変わらない。
私はただの職場の先輩で、畠中君から見たら十も年上のおばさんで、ただそれだけだ。
そもそも私は畠中君がどんな人なのかも全然知らない。
どんな食べ物が好きか、休みの日は家でどんなことをしているのか。
私が知っているのは畠中君がうっとりするほど綺麗な文字を書くことだけだ。
振り向けばすぐに話ができる距離にいるのに。
畠中君は遠く手の届かない場所の住人のように思えてきた。



