畠中君の書いた文字を初めて見たのは、一週間前のことだ。
その日、私は昼休憩に会社の近くのハンバーガー屋さんでランチを食べていた。
私たちが働いている会社は昼休憩を個人のタイミングで自由に選ぶことができる。
とはいえ、電話の取次などもあるから事務所に誰かが残るように暗黙の了解でバラバラと休憩に行くようにしている。
私は何となくみんなの休憩が終わってから自分の休憩をとるようにしているから、いつも二時か三時くらいになってしまう。
その日もいつもと同じくらいに休憩に出て、会社に戻ってきたのは三時を過ぎていた。
私が自分のデスクに戻ると、一枚のメモが貼ってあるのが見えた。
二十五歳でこの会社に中途入社してかれこれ十年。
社歴で言えば長い方に当たり、所属部署のチームリーダーという位置付けだ。
だから外部の方から私宛に電話がかかってくるのはよくある話。
私宛の言伝が書いてあるメモが置いてあるのは見慣れた光景なんだけど。
そこに書かれていた文字に、私の視線は吸い込まれるように惹き寄せられた。
書いてある言葉が意外だったわけじゃない。
メモに書かれた文字、そのものに惹かれていた。
丸みを帯びたやわらかそう字体。
メモのサイズを最初から計算しているかのように整ったバランスで無駄な余白がなく文字が敷き詰められている。
メモ全体にゆったりよとした優しさが滲み出ているのに、キリッとしたはねやしっかりと止まった濁点、筆圧の強さに奥に秘められた力強さを感じる。
なんて、なんて美しい文字なんだろう。
何度見てもうっとりしてしまう。
こんなに心が動かされる文字を見たのは久しぶりだ。
「桐生さん、お疲れ様です」
畠中君に名前を呼ばれて、昼休憩はとっくに終わっていたことを思い出す。
「どうしたの、何かあった?」
畠中君は私と同じ部署に所属する二十五歳。
この会社に転職してきてちょうど半年くらいのはずだ。
部署が同じとはいえ、担当業務が違うから私と関わることはそんなに多い方ではないんだよね。
そんな畠中君が私に何か用事でもあるのだろうか。
「桐生さんの休憩中に電話が来ていたものですから、その報告で」
最初はなんだ、そんなことかと気に留めてなかったんだけど。
今、電話って言った?
私は手に持っていたメモを読み返す。
「デスクにメモは残しておいたんですけど、念のための報告でした」
メモの一番下にうっとりするほどの艶かしい文字で「畠中」と書いてあった。
意外だった。普段の畠中君は真面目で大人しそうなイメージ。
この半年で悪い印象はないけど、かといって特別な印象もない。
書いた文字と私の印象のギャップが激しすぎる。
本当に同じ人が書いたのって思っちゃう。
「電話に出てくれてありがとうね」
それだけ言って畠中君はペコリと私に頭を下げて、自分の席に戻っていった。
言葉や空気感に畠中君と微妙な溝を感じる。
そうだよな、畠中君からしたら私は十も年上の職場の先輩だもんな。
それに私は性格がきついって言われがちだ。
桐生さんと話していると責められているような気がしてくる、とよく言われる。
畠中君からもそう思われているなら、ちょっぴり寂しいかも。
って何考えているんだ、私。
今までそんなこと思いもしなかったのに。
畠中君がパソコンの画面をじっと見つめている。
私が作成した自社の公式サイト。
きっと自社商品のことを勉強でもしているのだろう。
仕事なんだから当たり前のはずなのに自分が作成したページを見られていると思うと、体の奥でどこかがむずっとした。
もう一度、右手に握った黄色いメモ用紙に視線を落とす。
事務的な要件しか書いてない、ただのメモ。
たったそれだけのメモなのに。
私はそこからしばらく目を離すことができなかった。
その日、私は昼休憩に会社の近くのハンバーガー屋さんでランチを食べていた。
私たちが働いている会社は昼休憩を個人のタイミングで自由に選ぶことができる。
とはいえ、電話の取次などもあるから事務所に誰かが残るように暗黙の了解でバラバラと休憩に行くようにしている。
私は何となくみんなの休憩が終わってから自分の休憩をとるようにしているから、いつも二時か三時くらいになってしまう。
その日もいつもと同じくらいに休憩に出て、会社に戻ってきたのは三時を過ぎていた。
私が自分のデスクに戻ると、一枚のメモが貼ってあるのが見えた。
二十五歳でこの会社に中途入社してかれこれ十年。
社歴で言えば長い方に当たり、所属部署のチームリーダーという位置付けだ。
だから外部の方から私宛に電話がかかってくるのはよくある話。
私宛の言伝が書いてあるメモが置いてあるのは見慣れた光景なんだけど。
そこに書かれていた文字に、私の視線は吸い込まれるように惹き寄せられた。
書いてある言葉が意外だったわけじゃない。
メモに書かれた文字、そのものに惹かれていた。
丸みを帯びたやわらかそう字体。
メモのサイズを最初から計算しているかのように整ったバランスで無駄な余白がなく文字が敷き詰められている。
メモ全体にゆったりよとした優しさが滲み出ているのに、キリッとしたはねやしっかりと止まった濁点、筆圧の強さに奥に秘められた力強さを感じる。
なんて、なんて美しい文字なんだろう。
何度見てもうっとりしてしまう。
こんなに心が動かされる文字を見たのは久しぶりだ。
「桐生さん、お疲れ様です」
畠中君に名前を呼ばれて、昼休憩はとっくに終わっていたことを思い出す。
「どうしたの、何かあった?」
畠中君は私と同じ部署に所属する二十五歳。
この会社に転職してきてちょうど半年くらいのはずだ。
部署が同じとはいえ、担当業務が違うから私と関わることはそんなに多い方ではないんだよね。
そんな畠中君が私に何か用事でもあるのだろうか。
「桐生さんの休憩中に電話が来ていたものですから、その報告で」
最初はなんだ、そんなことかと気に留めてなかったんだけど。
今、電話って言った?
私は手に持っていたメモを読み返す。
「デスクにメモは残しておいたんですけど、念のための報告でした」
メモの一番下にうっとりするほどの艶かしい文字で「畠中」と書いてあった。
意外だった。普段の畠中君は真面目で大人しそうなイメージ。
この半年で悪い印象はないけど、かといって特別な印象もない。
書いた文字と私の印象のギャップが激しすぎる。
本当に同じ人が書いたのって思っちゃう。
「電話に出てくれてありがとうね」
それだけ言って畠中君はペコリと私に頭を下げて、自分の席に戻っていった。
言葉や空気感に畠中君と微妙な溝を感じる。
そうだよな、畠中君からしたら私は十も年上の職場の先輩だもんな。
それに私は性格がきついって言われがちだ。
桐生さんと話していると責められているような気がしてくる、とよく言われる。
畠中君からもそう思われているなら、ちょっぴり寂しいかも。
って何考えているんだ、私。
今までそんなこと思いもしなかったのに。
畠中君がパソコンの画面をじっと見つめている。
私が作成した自社の公式サイト。
きっと自社商品のことを勉強でもしているのだろう。
仕事なんだから当たり前のはずなのに自分が作成したページを見られていると思うと、体の奥でどこかがむずっとした。
もう一度、右手に握った黄色いメモ用紙に視線を落とす。
事務的な要件しか書いてない、ただのメモ。
たったそれだけのメモなのに。
私はそこからしばらく目を離すことができなかった。



