クール弁護士の背中に恋をしたら、なぜか溺愛監視されています

「えっ! 戸田くんに告白されたの?」
 昼休み。事務所近くのラーメン店で、向かいに座る同期の美咲が、箸を止めて身を乗り出した。
「うん。今度、ふたりで食事でもどうですかって」
「それで?」
「ええと……お断りしたよ」
「えええっ!?」
 美咲の声が店内に響き、周囲の客がちらりとこちらを見た。
「声が大きい」
「だって、戸田くんといえば、うちの若手弁護士の中でも一、二を争う人気者じゃない。イケメンだし将来の出世頭って噂だよ?」
「それは知ってるけど……。突然だったし。それに――」
「出た。希のヒーロースコープ。外見は抜群に可愛いのに、あんたのそれだけは余計だわ」
 美咲が呆れた顔をして箸をおいた。
「ヒーロースコープってなによ」
「あんたの異常な背中フェチのこと。背中だけで男の品定めしてるでしょ」
「だって、背中って大事じゃない?」
 私は豚骨ラーメンの丼を前に、熱弁を振るった。
「白いタンクトップに浮かぶ背筋。引き締まった腰。汗が光る、男らしさむんむんの体……ああ、たまらないっ」
「昼間からやめなさい」
「力仕事の人とか、軍人さんとかが好きなの。体を張って働いてます! って感じの、逞しい背中を持つ人!」
「あんたの男を見る目ってどうなってるのよ」
「私だって、人を背中だけで判断しちゃいけないってわかってるよ?」
「せめて顔も見なさいよ」
 美咲はやれやれといった様子で塩ラーメンをすすった。
「まったく、うちの事務所は綺麗でクールなイケメンも多いって評判が多いのに――あ、ほら! 坂下さんとかさ」
 美咲は急に窓に向けて大きく手を振った。
 見やると、背が高く、すらりとした体形の男性が、店の前を通り過ぎようとしていた。
 坂下玲。二十九歳。
 若手ながら優秀だと評判の弁護士で、いつも淡々としていて、銀縁眼鏡のよく似合う、涼しげな顔立ちをした人だ。言われて見ると、かなり整った顔をしている。
両手をぶんぶんと激しく振る美咲に気づいて、坂下さんが視線をこちらに向けた。
 不意に目が合った――かと思うと彼は、わずかに眉を寄せすぐに顔を背けると、すたすたと通り過ぎてしまった。
「……目合ったけど、そらされた」
「相変わらず希には塩対応だったね」
「たぶん、私のこと、嫌いなんだと思う」
「そうかぁ?」
何故かニヤニヤしながら美咲は首をかしげた。
「絶対そうだよ。仕事ではクールなくせに、私にはなにかと厳しいし。この前だって前髪が変だってさんざんなじられたし。そりゃ私はそんな優秀な事務員じゃないけど、絶対私のことダメ社員だって馬鹿にしてると思う」
「そんなことないと思うけど。希がミスしてもちゃんと親身にフォローしてくれるじゃない」
「仕事に差し障ると困るからだよ。それにちょっと謎の部分もあるし」
「それはある。コミュ力はあるのに、飲み会は絶対来ないし仕事が終わったらすぐ帰っちゃうし」
「きっと可愛い彼女さんでもいて、プライベートでは意外に甘々だったりして」
「そうかもねぇ」
 美咲はラーメンを食べ終えると、なぜだか呆れた顔で私を見た。
「あんたもいつまでも妙なフェチ持ってたら、そのうち誰からもお声がかからなくなるわよ」
「う、辛辣」
 美咲は来月、結婚式を控えている。一歩リードしている人間からの発言はかなり深く突き刺さる。
私だって、焦っていないわけではない。
 ただ、どうしても譲れないものがあるのだ。背中。そう背中だ!