一年半前。
『万葉、お前にちょうど良いと思う優秀な研修医を見つけたんだ。父さんな、数が好きだが、同じ“かず”でも“一”と“万”でちょうど良いと思うんだ』
父は都内の大学病院で心臓血管外科学講座の教授だ。
万葉が子どもの頃、父は手術や急患に追われて家に全く帰ってこなかった。おかげで、小学校に上がる頃まで、“父”ではなく“親戚のおじさん”だと認識していなかったぐらいだ。あげく、母以外に秘書の愛人だっているような人で……。
そんな父からの突然見合いの申し出。
――嫌だ。
父みたいに忙しくて家に帰ってこなくて――他の女性と浮気するリスクもある男性なんて無理。
新入社員のOLになったばかりだからと言い訳して最初は断ろうとした。
だけど、父は割と粘着質なところがあって、こうと言い出したら梃子でも引いてくれないところがあり、今回もそうだった。だからこそ、教授にまで上り詰めたのかもしれないが……。
なかなか折れない父に根負けして、万葉は一臣とのお見合いを承諾することになった。
『冬月一臣くんという名前だよ』
冬月一臣。一度国内の最高学府の文学部を出た後、元々人助けをしたかったからと、医学部に編入したらしい。その後、留年も多い医学部をストレートで卒業して、現在は研修医二年目の二十八歳。万葉よりも五歳年上だ。来年には修練医になるが、父のいる心臓血管外科への入局が決まっているらしい。
『分かりました、私では不釣合いな男性だとは思いますが、お父さんがそんなに仰るなら見合いをします』


