海賊退治専門屋

 ついに、
 すべての決着をつける時が来た。

​ 目の前に広がる氷原の向こうから、
 かつて俺を攫った海賊たちの気配が近づいてくる。

 イエロさんは愛用の剣を静かに抜き放ち、
 冷徹な眼差しで前方を見据えた。

「今回は、
一切の手加減をするつもりはありませんわよ」

​ そのあまりに真剣で、
 どこか悲壮感すら漂う横顔を見て、
 俺は張り詰めた空気に耐えかねて思わず聞いてしまった。

「あの……イエロさん」

「何ですか?」

「イエロさんって……その、
好きな人とか、
いるんですか?」

​ 緊迫した戦場に似合わない俺の問いかけに、
 イエロさんは驚いたように目を見張り、それからふっと悪戯っぽく微笑んだ。

「あら。
そんなことを大戦の前に聞くということは、
君、あたくしのことが好きなんですのね?」

「ち、違います!
ただ、なんとなく気になっただけで……っ」

​ 真っ赤になって否定する俺を見て、
 彼女はくすくすと肩を揺らす。

「ふふ、
誤魔化さなくても分かりますわよ。
子どもの考えることは、
とても分かりやすくて可愛らしいものですわ」

​ 完全にからかわれてしまい、
 俺はぐうの音も出なくなる。

 すると、
 イエロさんは少しだけ表情を和らげ、
 愛おしむような視線を俺にくれた。

​「……でも、嬉しいですわ。
あたくしも、
ヤンマ様は今まで出会ったどんな男性よりも、
一番素敵で、
守りたい方だと思っていましたから」

「それって……」

「まだ子どものあなたには、
少し難しい言い方になってしまうかしら。あたくしは、
君と、
君の家族を……今度こそ守りたいのです」

​ イエロさんの声が、微かに震える。

「亡くなったおいたわしいご両親を、
生き返らせることはできません。
でも、あのザイコスキーが再びあなたを奪おうとするならば、
あたくしが何度でも叩き斬って取り戻しますわ。
あたくしにはもう、
君しかいないと思えたから……」

​ 剣を握る彼女の手が、
 白くなるほど強く引き締まる。
 その瞳の奥に、
 仄暗い炎が揺らめいた。

「だから、
海賊はすべてここで根絶やしにします。
あたくしが、
海賊のいない清らかな世界を作ってみせますわ」

​ その強い言葉に応えるように、
 背後から足音が響いた。
 振り返ると、
 変わり果てた姿の姉さんが、
 戦う準備を整えて俺たちの横に並ぶ。

「姉さん……!」

 言葉はなくとも、
 姉さんの濁った瞳には「弟は自分が守る」という強い意志が宿っているように見えた。

​ その時、氷の裂け目から、
 ついにザイコスキー率いる海賊たちが姿を現した。

​「来ましたわね」

 イエロさんが剣を正中へと構える。
 その構えは、どこか異世界の古流武術を思わせた。

「古来より、あたくしたち『鬼族(きぞく)』と海賊は、
血で血を洗う争いを続けてきました。
鬼の血を引く者にとって、
海賊とは宿命の敵なのですわ」

​ イエロさんが鬼族……!?
 驚く俺の頭に、あの惨劇の光景がよぎる。

「イエロさん……俺の両親を殺したのは、本当にあいつらなんだな?
犯人は誰なんだ!」

​ イエロさんは海賊たちを睨みつけたまま、鋭い声で答えた。

「それは、本人たちの口から直接吐き出させましょう。
ヤンマ様の家の場所を正確に知っていたのです。
あの事件に、
奴らが深く関わっている可能性は極めて高いわ!」

​ 向かってくる海賊たちの先頭には、
 あのザイコスキーの姿がある。
 その表情は、
 怒りに満ちているようでもあり、
 どこか悲しげでもあった。

​ 俺は胸の内で、
 深く、
 深く息を吸い込んだ。

​ 今日こそ、
 すべての真実を知る。

 俺の両親を無残に殺したのは誰なのか。

 なぜ、臆病で何もない俺が異世界へ攫われなければならなかったのか。

​ 襲い来る海賊たちに、
 俺のすべてを懸けて問いただす時が来たんだ。