海賊退治専門屋

 街へ向かう道すがら、
 俺は以前から気になっていた疑問を、
 歩調を合わせながら思い切って尋ねてみた。

​「あのさ……さっき言ってた『海賊退治屋』って、
 具体的にどういう仕事なんだ?」

​ すると、
 イエロはふふっと自慢げに微笑み、
 指を一本立てた。

「基本中の基本を教えて差し上げますわ。まずわたくしのような海賊退治屋には、
泳げることが最重要。
その上で、
氷や雷といった
『水上で有利に立ち回れる能力』
が求められますの」

「なるほど……海の上だしな」

「ええ。
これが山賊退治屋ともなれば、
険しい山々を素早く移動できる並外れた体力と機動力が必須。
そして――」

​ イエロは空を見上げ、
 少し真面目な顔になる。

「空賊退治屋ともなれば、
飛行能力や高い跳躍力、
さらには空中戦を制するための遠距離攻撃の技術が必要ですのよ」

​「つまり……誰でもなれるような仕事じゃないんだな」

「当然ですわ。
中でも空賊退治屋は最難関と言われていますわね。
そもそも空を飛ぶ手段を身につけられる人間なんて、
一握りしかいませんもの」

​ なるほど、と俺は素直に感心した。
 異世界には異世界専門のプロフェッショナルがいるわけだ。

​ しかし、
 説明を終えたイエロの表情が、
 急に険しいものへと変わる。

​「……それよりも、ヤンマ様。
あたくし、先ほどから気になっていることがありますの」

​「え? 俺の呼び方、様……?
いや、それより気になることって?」

 少し戸惑う俺をまっすぐに見つめ、
 イエロは静かに言葉を紡いだ。

​「ヤンマ様はあの海賊たちに、
無理やり攫われて連れてこられたのよね?」

「うん、帰り道に突然意識を失って、
気づいたらあの船の樽の中にいたんだ」

「ですが、あなた、
身ぐるみ剥がされることもなく、何かを奪われた様子もありませんでしたわね?」

​「……あ」

 言われて初めて気がついた。

​「それがおかしいのですわ。
粗暴な海賊が、
わざわざ異世界から人間を一人攫ってきて、
傷一つつけずに宝の山と同じ部屋に寝かせておくなんて。
あの船長には、
あなたを攫った
『別の目的』があったとしか思えません」

​ イエロの冷徹な指摘に、
 俺の背筋に冷たいものが走った。

 ザイコスキーは身の回りの世話をしてくれたし、
 俺を邪心から守るために連れてきたと言っていた。
 だけど……本当にそれだけだったのだろうか?

​「あたくしの氷が溶ければ、
あの海賊団は再び君を追って現れる可能性がありますわね」

「じゃあ、またあいつらに会ったら……」

​「ええ、その時は必ず、
君を狙う本当の理由を吐き出させましょう」

​ イエロの強い眼差しに押されるように、俺は静かにうなずいた。

​ ザイコスキーが自分を攫った本当の理由。

 そして家族を襲ったという「邪心」の正体――。

 異世界に放り込まれた俺を巡る謎は、
 まだ何一つ、
 明らかになっていなかった。