空賊退治専門屋

 俺の名前はピウマ。

​ 男にしては小柄で、
 初対面で女の子に間違えられるのも一度や二度じゃない。

 学校で身長順に並べば、
 男子ではいつも一番前。

 それどころか妹にまであっさり追い抜かれ、
 今では家族で一番背が低い。

 ​身長を聞かれるたび、俺はいつも
「160センチある」と見栄を張る。

「本当に160あるの?」
 なんて疑いの目を向けられるのが落ちだと分かっていても、
 そう言わずにはいられないのだ。

​ 病院で低身長症の検査を受けたこともある。

 結果は「ギリギリ低身長症ではありません」

 安堵すればいいのか、
 いっそ理由がついたと落ち込めばいいのか、
 自分の気持ちさえよく分からなかった。

​――その日、俺は酒を飲んでいた。
 年齢?
 そんな細かいことはどうだっていい。

​ 酒はとにかくうまかった。

 杯を重ねるごとに視界が心地よくぼやけていき、
 やがて強烈な眠気が襲ってくる。
「……ふう、眠い……」

 呟きとともに、
 俺の意識はぷつりと途切れた。

​「……ここは?」
​ 目を覚ますと、
 見慣れない部屋にいた。

 使い込まれた木造の壁。
 そして、足元から伝わるかすかな揺れ。

 行きつけの酒場でも、
 自分の部屋でもない。

​「……夢か?」

​ 頭を押さえながら立ち上がり、
 出口の扉へ向かおうとしたその時――

​「どこへ行く気だ?」

 ​不意に重厚な低い声が響いた。

 振り返ると、
 見上げるような大柄の男が立っている。

​「帰るんだよ」
「ここからか?」
「当たり前だろ」
​ 男は呆れたように鼻で笑った。
​「ここは空の上だぞ」

​ 何をバカなことを言っているんだ、
 この男は。

​「信じられないなら、
自分の目で確かめてみろ」

​ 男に促されるまま、
 俺はギシギシと鳴る扉を開けた。

 次の瞬間――
​「……!?」

​ 目の前に広がっていたのは、
 どこまでも突き抜けるような青空と、
 眼下に広がる白い雲海だった。

 巨大な翼を広げた船が、
 風を切って雲の上を「航海」している。

​「船が……飛んでる……!?」

​ あまりの光景に足がすくむ。

……そうだ、
忘れていた。
俺は重度の高所恐怖症だった。

​「うわぁぁっ!」

​ 悲鳴を上げながら慌てて船内へと転がり込む。
 そんな俺を見下ろし、
 男は静かに尋ねてきた。

​「家へ帰りたいか?」

「帰れるなら、今すぐにでも帰りたい!」

「……残念だが、
お前にはもう帰る家がない」

「……どういう、意味だ?」

​ 不吉な胸騒ぎがして、
 鼓動が速くなる。

​「お前が泥酔して眠りこけている間、
巨大な津波が町を飲み込んだんだ」

​ 言葉を失った。

​「そんな……嘘だろ……」

「酒に酔って逃げ遅れたお前を、
この船が間一髪で引き揚げたのさ」

「じゃあ……家族は!?」

​ 真っ先に頭に浮かんだのは、
 父、
 母、
 そしてあの背の高い妹の顔だった。

​「みんな無事なんだよな!?」

​ 男はゆっくりと、
 重く首を横に振った。

​「……まだ安否は確認できていない」

​ その一言で、
 全身の血の気が引いていくのが分かった。
​ 信じたくない。
 信じるものか。
 だが、
 確かめようにも船ははるか雲の上を飛んでいる。
 今の俺には、
 降りることすらできないのだ。
​ こうして俺は、
 家族の安否も分からないまま、
 空飛ぶ船での生活を余儀なくされた。

 いつかまた家族と再会できると、ただそれだけを胸の支えにして――。