家で勉強をしつつ、
高校卒業後の進路希望調査の紙を前に私は悩んでいた。
中学卒業時に高校へ進学した方がいいという未来が見えたので、
そこまではスムーズに決められた。
未来を見ても、イフ(もしもの未来)を見ても、
中卒で働いたらロクなことが待っていないということは、
この能力が嫌というほど実証してくれている。
悩みの種は二つ。
高校卒業後の進路と、
もうすぐ訪れる中間テストの数学の解き方だ。
私は未来と過去とイフが見える。
けれど未来は最大でも5年先までしか見えないため、
わかるのは高校3年生の最初まで。
つまり、高校を卒業した後に自分がどうなるのかはわからない。
大学へ進学するのがいいのか、
就職するのがいいのか。
そもそも白薔薇学園の中等部に入学したのも、
小学生の頃に「ここへ入るのが一番最適だ」
という未来を見て勉強し、
受験したからだった。
テストの点数も未来を見れば確実だが、
それはなんだかずるい気がしてテスト中に未来は見ないようにしている。
代わりに過去を見るのだが、
過去を振り返ったところで数学の解き方そのものがわからないのだから結局悩みは解決しない。
「どうしたんだ?」
ハムスターの姿をした妖精のクリチェートが声をかけてきた。
「いろいろ分からないなって思って」
「未来と過去とイフがわかる、全知全能らしき君が?」
「全知全能じゃないわよ。
この能力には欠陥があるの。
未来は最大で5年先までが限界だし、
過去は私が生まれる少し前までしか見えない。
イフは『今この状態でこの選択をしたらどうなるか』しか見えなくて、
自分の行動次第でその分岐が増えたり減ったりもするのよ」
「意外だな」
「私が生まれる少し前の過去を見ても、
実の両親のことはぼんやり分かる程度で、
どうやって出会って付き合ったかまでは分からない。
もしかしたら、
私に兄や姉がいたとしても気づけないかもしれないってこと」
「じゃあ、黒船あぶきの寿命もわからない、と?」
「あぶきは5年以内なら生きてるよ。
選択によっては5年以内に死ぬけどね。
そのあとは、どうなっているかは分からないかな」
「仮に、6年後に死ぬという未来があったとしても?」
「私の未来予知の異能じゃ、来年にならないと確認できないね」
「この5年間で間違った選択をしたとしても?」
「そう。5年の間に間違った選択をしても、
その場では気づけないってこと」
「便利なんだか、不便なんだか……」
「でもね、
能力に欠陥があってよかったと思うこともあるの」
「それは?」
「能力ですべてが分かってしまったら、
人生なんてつまらなくなっちゃうと思うの。
だから欠陥がある方が『これはどうなんだろう』って自分で考えるきっかけになるし、
それはそれで面白いじゃない」
私は未来も、
過去も、
イフもわかるせいで、
どこか人生に退屈を感じているところがあった。
これまでも失敗を能力で先回りして回避してきた。
だからこそ、この「分からないこと」がある不完全さが、
少しだけ愛おしかった。
高校卒業後の進路希望調査の紙を前に私は悩んでいた。
中学卒業時に高校へ進学した方がいいという未来が見えたので、
そこまではスムーズに決められた。
未来を見ても、イフ(もしもの未来)を見ても、
中卒で働いたらロクなことが待っていないということは、
この能力が嫌というほど実証してくれている。
悩みの種は二つ。
高校卒業後の進路と、
もうすぐ訪れる中間テストの数学の解き方だ。
私は未来と過去とイフが見える。
けれど未来は最大でも5年先までしか見えないため、
わかるのは高校3年生の最初まで。
つまり、高校を卒業した後に自分がどうなるのかはわからない。
大学へ進学するのがいいのか、
就職するのがいいのか。
そもそも白薔薇学園の中等部に入学したのも、
小学生の頃に「ここへ入るのが一番最適だ」
という未来を見て勉強し、
受験したからだった。
テストの点数も未来を見れば確実だが、
それはなんだかずるい気がしてテスト中に未来は見ないようにしている。
代わりに過去を見るのだが、
過去を振り返ったところで数学の解き方そのものがわからないのだから結局悩みは解決しない。
「どうしたんだ?」
ハムスターの姿をした妖精のクリチェートが声をかけてきた。
「いろいろ分からないなって思って」
「未来と過去とイフがわかる、全知全能らしき君が?」
「全知全能じゃないわよ。
この能力には欠陥があるの。
未来は最大で5年先までが限界だし、
過去は私が生まれる少し前までしか見えない。
イフは『今この状態でこの選択をしたらどうなるか』しか見えなくて、
自分の行動次第でその分岐が増えたり減ったりもするのよ」
「意外だな」
「私が生まれる少し前の過去を見ても、
実の両親のことはぼんやり分かる程度で、
どうやって出会って付き合ったかまでは分からない。
もしかしたら、
私に兄や姉がいたとしても気づけないかもしれないってこと」
「じゃあ、黒船あぶきの寿命もわからない、と?」
「あぶきは5年以内なら生きてるよ。
選択によっては5年以内に死ぬけどね。
そのあとは、どうなっているかは分からないかな」
「仮に、6年後に死ぬという未来があったとしても?」
「私の未来予知の異能じゃ、来年にならないと確認できないね」
「この5年間で間違った選択をしたとしても?」
「そう。5年の間に間違った選択をしても、
その場では気づけないってこと」
「便利なんだか、不便なんだか……」
「でもね、
能力に欠陥があってよかったと思うこともあるの」
「それは?」
「能力ですべてが分かってしまったら、
人生なんてつまらなくなっちゃうと思うの。
だから欠陥がある方が『これはどうなんだろう』って自分で考えるきっかけになるし、
それはそれで面白いじゃない」
私は未来も、
過去も、
イフもわかるせいで、
どこか人生に退屈を感じているところがあった。
これまでも失敗を能力で先回りして回避してきた。
だからこそ、この「分からないこと」がある不完全さが、
少しだけ愛おしかった。



