未来と過去とイフがわかるお嬢様の学園生活

「ありえない」

 私は頭を抱えて、
 何度も未来も過去もイフも見ようとした。

 だけど、
 黒い映像ばかりが浮かび、
 何も見えない。
 見られない?

 そんな様子を見て、
 薔薇恋はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた。

「無駄ですわ。
やろうとしてること、お見通しですわ」

 私は感情を抑えた。

「何をしたの?」
「別に何も」
「嘘だよ。
何か能力を使ったんでしょう?
教えて」

「能力は知ってるでしょ?」

 薔薇恋の能力は7年後の未来と、
 選択できないイフと、
 自身が妊娠8か月として母親のおなかにいた過去まで見られること。

 確かに薔薇恋の能力では、私の異能を遮断できない。

 肩に乗っていたクリチェートが声をかけた。
「勝恋、大丈夫か?」

「どうしてよ?」

 私は動揺を隠せずにいた。

「どうして未来も過去もイフも見えないの?
こんなことってある?」

「落ち着け。おらの魔法で探ってみる」
「魔法?」

 クリチェートは異世界から来た魔法精霊で、
 異能とは違うけれど魔法を使える。
 たしか、3つのうちのひとつの魔法が能力分析だった気がする。

「考えられるとしたら、第三者の仕業だろう」
「第三者って?」

 薔薇恋はあきれたように口をはさんだ。

「話は終わったでしょうか? さあ、早く出ていって」

「待って」とあぶきが叫んだ。
「勝恋を追い出さないで」

 おばさんが口を開く。
「あぶき、勝恋ちゃんよりも薔薇恋ちゃんにいてもらった方が――」

「俺の大事な幼馴染なんだ」
「え?」

 薔薇恋とおばさんは動揺している様子だった。

「俺は……あぶきは、勝恋を見たときからずっと一緒にいたいと思っていた。
同居が決まったときは夢でも見ているんじゃないかって疑うほどだった。
どんな理由であっても、勝恋と一緒にいたかった。
勝恋じゃなきゃだめなんだ」

「あぶき……」

 私は小さく幼馴染の名前をつぶやいた。

「やめなさい。薔薇恋ちゃんがおばさんとあぶきには必要なの。
病気を治す可能性を見つけ出すのよ」

 そんなおばさんに私は今すぐ反論したかったけれど、
 ここで反論してしまっては、
 さらに家を追い出される可能性の方が大きくなってしまう。

 私はただ茫然とあぶき、
 薔薇恋、
 おばさんを見つめることしかできなかった。

 過去も未来もイフも見れなくなった今、
 私にできることが思いつかない。
 クリチェートの言う第三者によって私は能力を使えなくなっているんだと、
 ここで実感した。
 その第三者が何のためなのかは見当がつかないけれど。

「黒船あぶき」

 薔薇恋はここで鋭い目つきで、
 あぶきを見つめる。

「君は長生きできませんわ」

 ここで、おばさんとあぶきは表情を変えた。

「あたくしには分かるんです。
6年後、7年後にどうなるのか」

 薔薇恋は腕を広げて、
 自慢げに話す。

「君は20歳まで生きられない。
いいえ、20歳前後で病気で死ぬのですわ。
だから、あたくしが必要です。
どんな医療で治療を受けるのか、
誰を頼ればいいのか」

 あぶきは青ざめたまま何も話さない。
 あぶきを見つめたおばさんは、
 静かに私の方に向き直って語りかけた。

「そういうことだから、勝恋ちゃんじゃ頼りないのよ。
それに、薔薇恋ちゃんは勝恋ちゃんとの同居を嫌がっている」

「そう」

 私は三人の顔を見られずにうつむく。

「そういうことだったら、いいよ」

 泣きたい。
 だけど、ここで泣いちゃだめ。
 感情を押し殺すんだ。

 簡単な話、
 人を信用しちゃいけない。
 そんなこと、この異能を手に入れた時から分かっているじゃない?
 それなのに、なぜまた人を信用しようとした?

 私はクルリと向き直って話す。

「もういいわ。君たちに何も期待しないし、
何も与えない。
だけど、一つだけお願いしてもいい? 私に未来と過去とイフを見させて」

 薔薇恋は冷たい目をしていた。
「何かしようとしてる?」
「何もしようとしてないわ。
私は私のためにこの能力を使いたいのよ。
あぶきのことも、
おばさんのことも、
薔薇恋のこともどうこうしようと思わない。
むしろ、勝手にやってくれていいわ」

 薔薇恋は冷たく微笑んだ。

「いいわよ。出ていく決意ができたこと?」

「出ていくなんて、
最初から長居するつもりなんてなかったわ。
私は黒船勝恋じゃない。
芸神(げいがみ)勝恋よ。
生まれたときから、
今もね」

 私は荷物をまとめ、
 家を出ることにした。
 この家に向かってつぶやく。
「さよなら、
おばさん、
父様、
あぶき。
そして、ありがとう」

 ここで私は未来と過去とイフが見えた。
 どうしてこの能力が遮断されたのか、今わかった。

 感情操作と未来操作と過去操作の異能を持つ能力者によって、
 異能を手に入れていないことにされていたから。

「なるほどね」
 薔薇恋は、そんな能力者に頼み込んでいたんだ。

「勝恋、これからどうするつもりなんだ?」
「そんなこと、
未来と過去とイフを見ながら決めればいい」
「勝恋らしいな」

 私が出ていくというのに、
 その場にいない父様は仕方がないとしても、
 おばさんは挨拶もしない。
 私が歩いていこうとすると
 ――ところが、あぶきがどこからか駆け寄ってきて―