社長令嬢かつ美元家の養女〜稲光らいはそんな彼女に溺愛中〜

 朝のホームルーム。
 担任の先生から、
 こんな話があった。

「他校の生徒が無断で窓をよじ登り、
校内に入り込んだそうだ。
皆さんも、
くれぐれもそんな真似はしないようにな」

……誰もそんなことしないし、
できるわけもない。
 私は心の中で速攻でツッコミを入れた。

 この件はニュースにもなっていた。
 スマホでその記事を見ながら、
 私はまたもや呟く。

「愚かとしか言いようがないね」

「またツッコミですか?」

 声をかけてきたのは、
 美元マユだった。
 同じ私立白薔薇学園の初等部に通う女の子だ。

「ツッコミだけど」

「相変わらず、
ツッコミばかりいて飽きないのですか?」

「ツッコミが私のポリシーなので」

「ま、いいですわ。
あたくしは学校に行きますので」

「私も行くか」

 今朝は紫帆と待ち合わせをして、
 一緒に登校していた。
 朝から生徒会の挨拶運動があるため、
 いつもより早めに行かなければいけないのだ。

「紫帆は、こんな朝早くから来て退屈しない?
大体、まだ学校には誰もいないと思うけど」
「紫帆は朝から補習があるの」
 紫帆は笑顔で答える。

「いやいや、それって大丈夫?」

「大丈夫だって。
国語と数学と理科と英語と社会だけだから」

「ほぼ全教科じゃん」

「それに、紫帆は頑張ってる赤音ちゃんを見たいんだ」

「ありがとう。……それで、どうやって見るの?」

「監視カメラで」

「こわ。
ごめん、そんなやつとは思わなかった」

「紫帆のこと嫌い?」

「嫌いじゃないよ。
だけど、今のはないかなって」

「いいじゃん。
紫帆は赤音ちゃんが好きだから、監視くらい」

「もはや、これはどうツッコめばいいの?」

 学校に着くと、
 そのまま生徒会室に向かった。

 部屋に入ると、
 さっそく副会長の稲光(いなびかり)らいに遭遇した。

「おはよう、会長さん」

「ああ、おはよう」

「相変わらず、不愛想だな」

「ごめんね、これが私なの」

「笑顔の練習は?」

「それ、関係なくない?」

「生徒会はこれから、朝の挨拶運動をするんだよ? 必要じゃん」

「そんな理屈いらないから」

 彼はなぜか、
 私によく絡んでくる。

「……他のやつ、来てないな」

 私が呟く。生徒会役員どころか、
 教員だってまだ数人しか来ていないはずだ。

「稲光君」

「なあに?」

「私、寝るから」

「だめだよ。二度寝だよ」

「二度寝も何もあるか。朝早く来て誰もいなかったら、それは昼寝だ」

「いるって、ここに人が。見えないの?」

「見えてるけど、見たくない」

「そんなはっきり言うなって。生徒会長と話すの楽しいよ」

「どこが? 私、さっきからツッコミしかやってないよ」

 そんな不毛なやり取りをしているうちに時間になり、
 朝の挨拶運動が始まった。

「おはようございます」

 校門の前で、
 通りかかる生徒や先生に次々と挨拶をしていく。
 これが終われば、
 ようやく朝のホームルームだ。

 しかし、
 今日の試練はこれで終わらなかった。
 1時間目の体育は、
 さすがに身体に響く。
 特に紫帆は相当きつそうだった。

「紫帆、走れない……」

「これはルールだから走ろうね」

 自分でも冷淡だなと感じつつも、
 容赦なくツッコミを入れる。

「赤音ちゃん、紫帆の代わりにタイム上げて」
「なんの話をしてるの?」

 休み時間になり、
 私は図書室で本を借りることにした。

 本棚の隙間を探していると、
 幼馴染の岸田 騎士(きしだ ないと)君に声をかけられた。

「あれ、赤音じゃん」

「騎士君」

「なんの本読んでるの?」

「別に大したものじゃないよ」

「大体したことあるよ。君が何に興味を示してるか知りたいんだ」

 どいつもこいつも、
 マジで何なんだろう。

 呆れて図書室を出ていこうとすると、
 ふいに騎士君に髪を触られた。
 幼馴染なので動揺こそしないが、
 さすがに眉をひそめる。

「いきなり触るな」

「許可とってからがいいの?」

「そういう問題じゃない」

「髪、きれいだな」

「ありがとう。じゃあ、二度と触らないでね」

 ちなみにこの髪は、
 紫帆に触らせるために伸ばしているのだ。
 彼女は私の髪が好きだから。

「なぜ?」

「君は常識というものがないの?」

「あるよ、たぶん」

「『たぶん』ってなに? 言いたいことはそれだけ?」

「君が『常識がないの?』って聞いてきたじゃん」

「ああ、そうだね」

「じゃあ、決まり」

「何が?」

「放課後、猫カフェ行こう」

「なぜその流れになった? ……いいよ。紫帆も誘うから」

「やった。じゃあ、体育館の上で待ち合わせね」

「どうやって行くの?」

「普通によじ登ればいい」

「不審者じゃん」

「いいじゃん。この学校、不審者らしき人が出たし、これ以上増えてももう騒げないって」

「だから、増やすな」

 少し考えてから、
 私は提案した。

「それなら、放課後に教室の前で待ってよ。ホームルームが終わり次第、紫帆と向かうから」

「外から、ホームルームの様子のぞいていいの?」

「それはやめて」

「のり悪いな」

「常識に非常識を重ねるようなこと言わないで」

「常識とか非常識の話じゃなくて、青春したいなって」

「今の話の流れにあった?」

「なかったとしても、そういうことにしておけばいい」

「だめだ。ツッコミが追いつかない」

 こうして怒涛の時間が過ぎ、
 昼休みが終わって午後の授業に戻った。

 教室には紫帆がいる。
 彼女は本当にかわいい。
 ほんわかした天使のようだ。
……だけど、
 授業中に絵を描くのはやめてほしかった。
 先生もなぜ何も言わない? 気づいてないのか、それとも気づいてないフリなのか?

 すると突然、紫帆が鼻歌を歌い出した。
 これ、やばい。
 そろそろ怒られるぞ……!

「誰だ、鼻歌なんて歌ってるのは?」
 案の定、先生が眉をひそめた。
 これをごまかすのはさすがに無理がある。
 しかし、前の席の生徒が事もなげに言った。

「すいません、先生。それは先生の幻聴じゃないですか?」

……誰がそんな言い訳を信じるんだ?

「やっぱり、そうなるのか。先生、お祓い行かないとな」

 信じるの!? 幻聴で話が片付いちゃうの!?

 動揺する私をよそに、
 先生はさらにブツブツと呟いた。
「授業中にお昼が終わったのにお弁当食べてるとか、絵を描いてる人がいるのは……?」

 もしかして、紫帆が絵を描いてることにも気づいてた!? ていうか、お弁当食べてる奴までいたの!? 私も気づかなかったけど!

 別の生徒がすかさずフォローを入れる。

「先生、それは幻覚だと思います」

「そうか。先生がおかしかったのか……」

 先生は納得したように頷き、
 授業を再開した。
……この学園、やっぱりどこかおかしい。