学校生活はゆっくりと進み、6月。校庭が活気に包まれる「春季運動会」の季節がやってきた。
「莉緒、リレー頑張ろうね!」「うん、みんなで1位取ろう!」
クラスの女子たちとお揃いのハチマキを締めながら、莉緒はいつものように声を弾ませる。
そんな賑やかな喧騒から少し離れたテントの陰で、瑠唯は静かに莉緒の姿を目で追っていた。二人の視線がふと重なると、瑠唯は小さく片手を挙げる。莉緒も周りにバレないように、こっそり手を振り返した。二人だけの、秘密の合図。
しかし、瑠唯の胸の奥には、ここ数週間ずっと消えない小さな違和感があった。
(……気のせいか?)
遠目から見る莉緒の横顔が、心なしかいつもより白く、透明に透けているように見えるのだ。時折、みんなが盛り上がっている後ろで、莉緒がそっと胸に手を当てて深く息を吐き出しているのを、瑠唯は見逃していなかった。
「次の種目は、2年生女子4×100メートルリレーです」
アナウンスが響き、莉緒たちの出番がやってくる。莉緒はアンカー(第4走者)だった。
「莉緒、頼んだよ!」
第3走者の友達が、トップで莉緒へバトンをつなぐ。
「任せて!」
莉緒はバトンをしっかりと握りしめ、力強く地面を蹴り出した。
歓声が頭上を飛び交う。風を切り、ゴールに向かって真っ直ぐに走る莉緒の背中を、瑠唯は思わず立ち上がって見つめていた。
あと、五十メートル。
逃げ切れる、そう誰もが確信したその瞬間。
「あ……」
莉緒の足元が、目に見えてがくんと崩れた。
何もないトラックの真ん中で、莉緒はまるで糸が切れた人形のように、激しく地面に倒れ込んでしまったのだ。
「莉緒!?」
悲鳴のような歓声が上がる。
莉緒はすぐに立ち上がろうとした。けれど、体に力が入らない。視界がぐにゃりと歪み、激しい息切れと、これまでに経験したことのない疲労感が泥のように全身を支配していく。
トラックの向こうから、誰よりも早く、遮ふり構わず駆け出してくる人影が見えた。
砂埃を上げて莉緒の元へ滑り込んできたのは、息を激しく切らした瑠唯だった。
「莉緒! 莉緒、しっかりしろ!」
「るい……くん……ごめん、なさい……」
瑠唯の手が、莉緒の肩を強く掴む。その手は、あの雨の日の何倍も、激しく震えていた。
「莉緒、リレー頑張ろうね!」「うん、みんなで1位取ろう!」
クラスの女子たちとお揃いのハチマキを締めながら、莉緒はいつものように声を弾ませる。
そんな賑やかな喧騒から少し離れたテントの陰で、瑠唯は静かに莉緒の姿を目で追っていた。二人の視線がふと重なると、瑠唯は小さく片手を挙げる。莉緒も周りにバレないように、こっそり手を振り返した。二人だけの、秘密の合図。
しかし、瑠唯の胸の奥には、ここ数週間ずっと消えない小さな違和感があった。
(……気のせいか?)
遠目から見る莉緒の横顔が、心なしかいつもより白く、透明に透けているように見えるのだ。時折、みんなが盛り上がっている後ろで、莉緒がそっと胸に手を当てて深く息を吐き出しているのを、瑠唯は見逃していなかった。
「次の種目は、2年生女子4×100メートルリレーです」
アナウンスが響き、莉緒たちの出番がやってくる。莉緒はアンカー(第4走者)だった。
「莉緒、頼んだよ!」
第3走者の友達が、トップで莉緒へバトンをつなぐ。
「任せて!」
莉緒はバトンをしっかりと握りしめ、力強く地面を蹴り出した。
歓声が頭上を飛び交う。風を切り、ゴールに向かって真っ直ぐに走る莉緒の背中を、瑠唯は思わず立ち上がって見つめていた。
あと、五十メートル。
逃げ切れる、そう誰もが確信したその瞬間。
「あ……」
莉緒の足元が、目に見えてがくんと崩れた。
何もないトラックの真ん中で、莉緒はまるで糸が切れた人形のように、激しく地面に倒れ込んでしまったのだ。
「莉緒!?」
悲鳴のような歓声が上がる。
莉緒はすぐに立ち上がろうとした。けれど、体に力が入らない。視界がぐにゃりと歪み、激しい息切れと、これまでに経験したことのない疲労感が泥のように全身を支配していく。
トラックの向こうから、誰よりも早く、遮ふり構わず駆け出してくる人影が見えた。
砂埃を上げて莉緒の元へ滑り込んできたのは、息を激しく切らした瑠唯だった。
「莉緒! 莉緒、しっかりしろ!」
「るい……くん……ごめん、なさい……」
瑠唯の手が、莉緒の肩を強く掴む。その手は、あの雨の日の何倍も、激しく震えていた。

