君と、雨宿りの続きを

「まさか、本当にるいくんだったなんて」


夕闇が静かに公園を包み込む中、莉緒は小さく息を吐きながら、ベンチの背もたれに体を預けた。立ちくらみはすっかり治まっていたけれど、胸の奥が高鳴るような、不思議な温かさがまだ残っている。

瑠唯は隣で、まだ信じられないといった様子で、自分の大きな手のひらを見つめていた。

「俺さ……ずっと、あの時の女の子はもうどこか遠い街に引っ越したか、それとも、お姉ちゃんみたいに……って、最悪なことばかり考えてた」

瑠唯の声は低く、どこか掠れている。

「だから、こうして同じ高校で、同じクラスで再会できるなんて、思ってもみなかった」

「ふふ、私はしぶといんだよ? あの時だって、お医者さ
んに『もう大丈夫』って言われて退院したんだから」

莉緒は胸を張って、少しおどけてみせた。

そんな莉緒の姿を、瑠唯は吸い込まれるようなじっとした目で見つめる。いつもは誰に対しても冷たい壁を作っていた彼の瞳が、今はひどく優しく、そしてどこか切なげに揺れていた。

「……川上」

「あ、莉緒って呼んでくれたのに、また『川上』に戻っちゃうんだ?」

悪戯っぽく微笑む莉緒に、瑠唯は一瞬だけ耳を赤くして、視線を逸らした。

「……莉緒」

「うん!」

「これからは、無理して笑うな。俺の前だけでも、しんどい時はしんどいって言えよ。俺、もうお前が無理してるところ、見てたくない」

不器用だけど、真っ直ぐな言葉だった。

みんなから「可愛い莉緒ちゃん」であることを求められ、知らず知らずのうちに心をすり減らしていた莉緒にとって、それは何よりも欲しかった救いの言葉だったのかもしれない。

「……うん。ありがとう、るいくん」

二人の間に、昨日の雨宿りの時とは違う、心地よくて静かな時間が流れる。
翌日からの学校生活は、目に見えて何かが変わったわけではなかった。

莉緒は相変わらず友達に囲まれているし、瑠唯も窓の外を眺めている。だけど、時折ふとした瞬間に二人の視線が交わると、どちらからともなく小さく微笑み合うようになった。

それは、クラスの誰も知らない、二人だけの秘密の合図。
ゆっくりと、けれど確実に、二人の新しい時間が動き出していた。

しかし、その週末。

莉緒は自室の洗面所で、歯を磨いていた手をふと止めた。鏡に映る自分の顔が、ファンデーションを塗っているわけでもないのに、ひどく白く血の気が引いているように見える。

そして、ペッと吐き出した泡の中に、鮮やかな赤が混じっているのを見て、莉緒の胸に冷たい不穏な予感がよぎった。