ひまわりが咲く場所で

それから数年後。
俺は大学を卒業し、国家試験を経て、とある総合病院の若手研修医として慌ただしい日々を送っていた。

真っ白な白衣を身にまとい、PHSをポケットに入れて病棟の廊下を駆ける毎日。自分の無力さに打ちのめされそうになることもあるけれど、そんな時はいつも、デスクの引き出しに大切にしまってある、あのふたつの星のキーホルダーを眺めては気持ちを奮い立たせていた。
そんなある春の日。
新しい年度が始まり、俺の所属する病棟にも新人看護師たちが配属されてきた。
「指導医の先生方、本日より配属になりました新人看護師の皆さんです」
ナースステーションの前に集まった初々しい顔ぶれ。
カルテに目を通していた俺がふと顔を上げたその瞬間、心臓が大きく跳ね上がった。

「本日よりお世話になります。七瀬梨衣です。よろしくお願いします!」

一斉に頭を下げたその中に、あの時、書店で「看護学校のパンフレット」を嬉しそうに見せてくれた彼女がいた。
数年前よりも一段と大人びて、だけどあの頃と変わらない、芯のある真っ直ぐな瞳。
そして、緊張とやる気に満ちあふれた、あのどこか莉緒の面影を残す「泣き笑い」に似た、愛らしい笑顔。
あの子が、本当に俺のいる病院に、同じ病棟にやってきたんだ。
挨拶が終わり、スタッフたちがそれぞれ動き出す中、彼女は俺の白衣のネームプレートを見てハッと目を見開いた。
「あ……! あの時の、お兄さん……!?」
「……久しぶり。いや、これからは『相葉先生』って呼んでもらわないと困るな」
俺が少し悪戯っぽく微笑むと、彼女は驚いたあと、今度は心からの満面の笑みを咲かせた。
「はい! よろしくお願いします、相葉先生!」
かつて白い病室で、俺たちは手を握り合って涙を流した。
だけど今、俺たちは同じ白いコートを纏い、誰かの命を救うためのスタートラインに、並んで立っている。
莉緒。
お前が新しく紡ぎ始めた命の物語の続きを、今度はこの場所で、一緒に描いていこう。
窓から差し込むうららかな春の光が、新米医師と新人看護師のふたりを、温かく包み込んでいた。