その日の夜、俺は深く、深い眠りの中で、不思議な夢を見ていた。
目の前に広がっていたのは、いつか二人で行った、あの夏のひまわり畑だった。
だけど、空の色は昼間ではなく、穏やかな茜色の夕暮れ。風が吹くたびに、黄金色の波が優しくざわめいている。
「――るいくん」
聞き慣れた愛おしい声に振り返ると、ひまわりたちの隙間から、莉緒がゆっくりと歩いてくるところだった。
その姿は、病室にいた頃の痩せた体ではなく、あの頃のように元気で、ただそこにいるだけで周りを明るくするような、いつもの莉緒だった。
「莉緒……っ!」
思わず駆け寄り、その肩を抱きしめようとしたけれど、俺の手はなぜか莉緒の体をすり抜けてしまう。
驚いて目を見開く俺を見て、莉緒は困ったように、でも、どこか愛おしそうに小さく微笑んだ。
「驚かせてごめんね。でも、どうしても最後に、るいくんに伝えておきたいことがあって」
莉緒はそっと、俺の胸のあたりに手を添えた。触れている感覚はないはずなのに、不思議とその場所がじんわりと温かくなる。
「るいくん、私ね。自分の病気のことが分かってから、ずっと怖かった。どうして私なんだろうって、真っ暗な部屋の中で、一人で泣いた夜もたくさんあったの。だけど……」
莉緒は一歩下がり、満開のひまわりたちを見渡した。
「るいくんが私の『10の願いごと』を一緒に叶えてくれたあの時間、私は自分の病気のことを、一瞬も思い出さなかった。るいくんが手を握ってくれるだけで、ただの、普通の女の子になれたの。……私にとっての奇跡は、病気が治ることじゃなくて、るいくんに出会えたこと、そのものだったんだよ」
莉緒の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
だけどその顔は、悲しい顔なんかじゃなくて、心の底から満たされたような、本当に綺麗な泣き笑いだった。
あの冬の日に路地裏で見た、あの女の子の表情の理由が、その時ようやく分かった気がした。
「だからね、自分を責めないで。るいくんは、私の世界を全部、ひまわり色にしてくれたんだよ。本当に、本当にありがとう」
夕暮れの光が強くなり、莉緒の体がゆっくりと光に溶けていく。
「るいくん、大好きだよ。――いってきます!」
元気いっぱいに手を振る莉緒の姿が、光の中に消えていく。
ハッと目が覚めると、自分の部屋の天井が見えた。
頬を伝う涙は冷たかったけれど、胸の奥には、夢の中で莉緒がくれた温かいひだまりが、確かに残っていた。
目の前に広がっていたのは、いつか二人で行った、あの夏のひまわり畑だった。
だけど、空の色は昼間ではなく、穏やかな茜色の夕暮れ。風が吹くたびに、黄金色の波が優しくざわめいている。
「――るいくん」
聞き慣れた愛おしい声に振り返ると、ひまわりたちの隙間から、莉緒がゆっくりと歩いてくるところだった。
その姿は、病室にいた頃の痩せた体ではなく、あの頃のように元気で、ただそこにいるだけで周りを明るくするような、いつもの莉緒だった。
「莉緒……っ!」
思わず駆け寄り、その肩を抱きしめようとしたけれど、俺の手はなぜか莉緒の体をすり抜けてしまう。
驚いて目を見開く俺を見て、莉緒は困ったように、でも、どこか愛おしそうに小さく微笑んだ。
「驚かせてごめんね。でも、どうしても最後に、るいくんに伝えておきたいことがあって」
莉緒はそっと、俺の胸のあたりに手を添えた。触れている感覚はないはずなのに、不思議とその場所がじんわりと温かくなる。
「るいくん、私ね。自分の病気のことが分かってから、ずっと怖かった。どうして私なんだろうって、真っ暗な部屋の中で、一人で泣いた夜もたくさんあったの。だけど……」
莉緒は一歩下がり、満開のひまわりたちを見渡した。
「るいくんが私の『10の願いごと』を一緒に叶えてくれたあの時間、私は自分の病気のことを、一瞬も思い出さなかった。るいくんが手を握ってくれるだけで、ただの、普通の女の子になれたの。……私にとっての奇跡は、病気が治ることじゃなくて、るいくんに出会えたこと、そのものだったんだよ」
莉緒の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
だけどその顔は、悲しい顔なんかじゃなくて、心の底から満たされたような、本当に綺麗な泣き笑いだった。
あの冬の日に路地裏で見た、あの女の子の表情の理由が、その時ようやく分かった気がした。
「だからね、自分を責めないで。るいくんは、私の世界を全部、ひまわり色にしてくれたんだよ。本当に、本当にありがとう」
夕暮れの光が強くなり、莉緒の体がゆっくりと光に溶けていく。
「るいくん、大好きだよ。――いってきます!」
元気いっぱいに手を振る莉緒の姿が、光の中に消えていく。
ハッと目が覚めると、自分の部屋の天井が見えた。
頬を伝う涙は冷たかったけれど、胸の奥には、夢の中で莉緒がくれた温かいひだまりが、確かに残っていた。

