君と、雨宿りの続きを

翌朝、昨日の豪雨が嘘のように、5月の澄み切った青空が広がっていた。

「莉緒、おはよう! 昨日大丈夫だった? 雨すごかったでしょ」

「おはよう! 大丈夫だよ、ちょっと雨宿りしてから帰ったから」

教室に入った瞬間、莉緒はいつものように友達に囲まれる。いつもの笑顔、いつもの声。昨日、昇降口で一瞬だけ「完璧な自分」の仮面を剥ぎ取られたことなんて、誰も知らない。

莉緒はそっと、窓際の席へと視線を向けた。
そこには、いつもと変わらず気だるそうに頬杖をつき、外を眺めている瑠唯の姿があった。

目が合うわけでも、話しかけてくるわけでもない。まるで、昨日の雨の中の出来事なんて最初からなかったかのように、彼は静かにそこに佇んでいる。

(……やっぱり、夢だったのかな)

莉緒の胸に、少しだけ寂しさに似たざわめきが広がる。
いつもなら誰とでもそつなく話せる莉緒なのに、なぜか瑠唯に自分から「おはよう」と声をかける勇気は出なかった。周りに女子たちがたくさんいる手前、不自然に話しかけて噂になるのを恐れたのもあるけれど、何より、あの静かな空間を壊してしまいたくなかった。
1限目のチャイムが鳴り、みんなが自分の席へと戻っていく。
莉緒は教科書を開きながら、時折、斜め後ろにある瑠唯の席の気配を感じていた。
その日の昼休み。
莉緒は友達とお弁当を食べるために購買へ向かおうとした時、ふと、教室のゴミ箱の横に、見覚えのある黒いペンケースが落ちているのに気づいた。
シンプルで、飾り気のない革製のペンケース。昨日、瑠唯がバッグから取り出そうとしていたものだ。

「あ……」

周りの友達はすでに廊下へ出ていってしまっている。
瑠唯の席を見ると、彼の姿はなかった。食堂にでも行ったのだろうか。
莉緒は落ちていたペンケースを拾い上げると、少しだけ胸を鳴らしながら、彼の誰もいない机の上にそっと置いた。
その時、引き出しの奥に、1枚の古い写真が少しだけはみ出しているのが目に入った。


それは、まだ幼い瑠唯が、優しそうな女性の手をぎゅっと握って、ひまわり畑の中で笑っている写真だった。今の冷ややかな瑠唯からは想像もつかないような、心の底から嬉しそうな、幼い笑顔。

「あ、ごめん……」

盗み見るつもりはなかったのに、莉緒はその写真から目が離せなくなってしまった。

その写真の端っこは、何度も何度も触られたように、少しだけ擦り切れていて――。

「……何してるの」
背後から、低く冷たい声が響いた。
心臓が跳ね上がる。振り返ると、そこにはいつになく険しい目をした瑠唯が立っていた。