新しい抗がん剤の治療が始まってから、体に強いだるさや吐き気が襲う日が増えた。
けれど、るいくんが毎日持ってきてくれる学校のノートや、他愛のないおしゃべりが、私をこの世界に繋ぎ止めてくれていた。
ある日の夕方。いつものように面会室にやってきたるいくんは、少し緊張した面持ちで、アクリル板の前に座った。
「莉緒、体調は? 少しは落ち着いたか」
「うん、今日はわりと調子が良い方かな。るいくんの顔を見る元気もあるよ」
私が少し笑ってみせると、るいくんはふう、と深く息を吐き出し、じっと私の目を見つめた。その真剣な眼差しに、私の胸がトクンと小さく跳ねる。
「あのさ……ずっと考えてたんだ」
るいくんの声が、いつもより少し低く、響いた。
「俺、お姉ちゃんを亡くしてから、誰かと深く関わるのがずっと怖かった。でも、莉緒と再会して、お前がこうして病気と闘ってる姿を見て、やっと気づいたんだ」
るいくんはアクリル板に、そっと自分の右手を重ねる。
「怖がって何もしないより、俺は、お前の隣にちゃんといたい。お前の『一番近くにいる人間』になりたいんだ。……莉緒、俺と付き合ってほしい」
心臓が、耳の奥で大きく鐘を鳴らしたみたいに激しく脈打った。
嬉しくて、でも、今の自分の状況を考えると、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「……るいくん、私、こんな病気だよ? これからもっと格好悪い姿も見せるかもしれないし、ずっとここにいるかもしれないんだよ?」
「そんなの、最初から分かってる」
るいくんは、迷いのない強い目で言い切った。
「どんな姿の莉緒でも、俺にとってはあのひまわり畑の時から、ずっと特別な女の子なんだ。莉緒の全部を、俺に支えさせてくれ」
その言葉に、また涙が溢れそうになるのを必死で堪えながら、私は自分の手をアクリル板のるいくんの手へと重ねた。
「……うん。私でいいなら、よろしくお願いします」
アクリル板越しに、二人の恋が静かに始まった。
触れ合うことはできなくても、私たちの心は、今この瞬間、誰よりも近くで強く結ばれていた。
けれど、るいくんが毎日持ってきてくれる学校のノートや、他愛のないおしゃべりが、私をこの世界に繋ぎ止めてくれていた。
ある日の夕方。いつものように面会室にやってきたるいくんは、少し緊張した面持ちで、アクリル板の前に座った。
「莉緒、体調は? 少しは落ち着いたか」
「うん、今日はわりと調子が良い方かな。るいくんの顔を見る元気もあるよ」
私が少し笑ってみせると、るいくんはふう、と深く息を吐き出し、じっと私の目を見つめた。その真剣な眼差しに、私の胸がトクンと小さく跳ねる。
「あのさ……ずっと考えてたんだ」
るいくんの声が、いつもより少し低く、響いた。
「俺、お姉ちゃんを亡くしてから、誰かと深く関わるのがずっと怖かった。でも、莉緒と再会して、お前がこうして病気と闘ってる姿を見て、やっと気づいたんだ」
るいくんはアクリル板に、そっと自分の右手を重ねる。
「怖がって何もしないより、俺は、お前の隣にちゃんといたい。お前の『一番近くにいる人間』になりたいんだ。……莉緒、俺と付き合ってほしい」
心臓が、耳の奥で大きく鐘を鳴らしたみたいに激しく脈打った。
嬉しくて、でも、今の自分の状況を考えると、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
「……るいくん、私、こんな病気だよ? これからもっと格好悪い姿も見せるかもしれないし、ずっとここにいるかもしれないんだよ?」
「そんなの、最初から分かってる」
るいくんは、迷いのない強い目で言い切った。
「どんな姿の莉緒でも、俺にとってはあのひまわり畑の時から、ずっと特別な女の子なんだ。莉緒の全部を、俺に支えさせてくれ」
その言葉に、また涙が溢れそうになるのを必死で堪えながら、私は自分の手をアクリル板のるいくんの手へと重ねた。
「……うん。私でいいなら、よろしくお願いします」
アクリル板越しに、二人の恋が静かに始まった。
触れ合うことはできなくても、私たちの心は、今この瞬間、誰よりも近くで強く結ばれていた。

