ゆっくりと目を覚ますと、視界に飛び込んできたのは、見慣れない真っ白な天井だった。
ツンとする独特な消毒液の匂い。規則正しく響く、電子的な機械の音。
(あ、私、またここに戻ってきちゃったんだ……)
幼い頃の記憶が、一瞬にしてフラッシュバックする。あの時と同じ、静かで、どこか冷たい病院の空気。
運動会のリレーの途中、急に足に力が入らなくなって、そのまま地面が近づいてきたところまでは覚えている。周りの悲鳴のような声の向こうから、必死な顔で走ってきた、るいくんの姿も。
「……るい、くん」
かすれた声で呟いてみるけれど、自分の声があまりにも弱々しくて、胸の奥がぎゅっと苦しくなった。
体中に泥が詰まっているみたいに重くて、指先一つ動かすのにも、ものすごい体力がいる。
コンコン、と静かに病室のドアが叩かれた。
入ってきたのは、まだ体育着の姿ののままのるいくんだった。
「……莉緒。気がついたか」
るいくんの顔を見た瞬間、私は自分の顔から一気に血の気が引いていくのが分かった。
だって、るいくんの目は、あの日ひまわり畑の病院で、お姉ちゃんの病室の前で今にも泣き出しそうに俯いていた
『あの頃の男の子』と、全く同じ目狂おしいほどの不安と恐怖に揺れていたから。
「るいくん……ごめんね。また、びっくりさせちゃって」
私は、いつものように笑おうとした。るいくんを安心させたくて、みんなが好きな「大丈夫な私」になろうとした。
だけど、唇が震えて、上手く笑えない。
そんな私のベッドの脇に、るいくんはゆっくりと歩み寄ってきた。そして、私の細くなった手を、両手で包み込むようにして、ぎゅっと握りしめた。
その手は、驚くほど強くて、少しだけ汗ばんでいて、そして――やっぱり、かすかに震えている。
「莉緒、もういいから」
るいくんは、低く、でも心の底から語りかけるような声で言った。
「無理して笑わなくていいって、言っただろ。怖いなら、怖いって言えよ。俺、どこにも行かないから。莉緒が元気になるまで、ずっとここにいるから」
るいくんの言葉が、私の張り詰めていた心の糸を、ぷつりと切った。
いつも「しっかりしなきゃ」「みんなの憧れる莉緒でいなきゃ」と張り詰めていた心が、彼の温かい手のひらを通じて、一気に溶け出していく。
「……るいくん。私、怖いよ」
私の目から、堪えきれなくなった涙がポロポロと溢れて、枕を濡らしていく。
「またあの時みたいに、ずっとお外に出られなくなっちゃうのかな。みんなと一緒に、卒業できないのかな……。怖いよ、るいくん……」
泣きじゃくる私の手を、るいくんは何度も、何度も、壊れ物を扱うように優しく握り直してくれた。
「大丈夫だ。俺が、絶対に莉緒を一人にしない。だから、一緒に戦おう」
その力強い言葉が、絶望に染まりかけていた私の白い世界に、一筋の温かい光を差し込んでくれたような気がした。
ツンとする独特な消毒液の匂い。規則正しく響く、電子的な機械の音。
(あ、私、またここに戻ってきちゃったんだ……)
幼い頃の記憶が、一瞬にしてフラッシュバックする。あの時と同じ、静かで、どこか冷たい病院の空気。
運動会のリレーの途中、急に足に力が入らなくなって、そのまま地面が近づいてきたところまでは覚えている。周りの悲鳴のような声の向こうから、必死な顔で走ってきた、るいくんの姿も。
「……るい、くん」
かすれた声で呟いてみるけれど、自分の声があまりにも弱々しくて、胸の奥がぎゅっと苦しくなった。
体中に泥が詰まっているみたいに重くて、指先一つ動かすのにも、ものすごい体力がいる。
コンコン、と静かに病室のドアが叩かれた。
入ってきたのは、まだ体育着の姿ののままのるいくんだった。
「……莉緒。気がついたか」
るいくんの顔を見た瞬間、私は自分の顔から一気に血の気が引いていくのが分かった。
だって、るいくんの目は、あの日ひまわり畑の病院で、お姉ちゃんの病室の前で今にも泣き出しそうに俯いていた
『あの頃の男の子』と、全く同じ目狂おしいほどの不安と恐怖に揺れていたから。
「るいくん……ごめんね。また、びっくりさせちゃって」
私は、いつものように笑おうとした。るいくんを安心させたくて、みんなが好きな「大丈夫な私」になろうとした。
だけど、唇が震えて、上手く笑えない。
そんな私のベッドの脇に、るいくんはゆっくりと歩み寄ってきた。そして、私の細くなった手を、両手で包み込むようにして、ぎゅっと握りしめた。
その手は、驚くほど強くて、少しだけ汗ばんでいて、そして――やっぱり、かすかに震えている。
「莉緒、もういいから」
るいくんは、低く、でも心の底から語りかけるような声で言った。
「無理して笑わなくていいって、言っただろ。怖いなら、怖いって言えよ。俺、どこにも行かないから。莉緒が元気になるまで、ずっとここにいるから」
るいくんの言葉が、私の張り詰めていた心の糸を、ぷつりと切った。
いつも「しっかりしなきゃ」「みんなの憧れる莉緒でいなきゃ」と張り詰めていた心が、彼の温かい手のひらを通じて、一気に溶け出していく。
「……るいくん。私、怖いよ」
私の目から、堪えきれなくなった涙がポロポロと溢れて、枕を濡らしていく。
「またあの時みたいに、ずっとお外に出られなくなっちゃうのかな。みんなと一緒に、卒業できないのかな……。怖いよ、るいくん……」
泣きじゃくる私の手を、るいくんは何度も、何度も、壊れ物を扱うように優しく握り直してくれた。
「大丈夫だ。俺が、絶対に莉緒を一人にしない。だから、一緒に戦おう」
その力強い言葉が、絶望に染まりかけていた私の白い世界に、一筋の温かい光を差し込んでくれたような気がした。

