未完成のティラミス

気まずい雰囲気を味わった後、1週間後も、2週間後も、これまでと同じだった。顔を合わせれば挨拶をして、何かを手伝えばありがとうと言いあった。
ごく普通の関係だ。それなのに、圭太にはどんどん距離ができていくようなむなしさがあった。仕事をいくら頑張っても、先輩から褒めてもらっても、果たして自分が成長できているのかわからなかった。
結果に関わらず努力したい気持ちはあるけれど、やっぱりどうせならいいほうの手ごたえだとか結果が欲しいのはみんな同じだろう。

智香がテレビ局の仕事とは別にコン・ブリオの動画撮影の手伝いに来た日の、次の日の朝だった。
東京に大雨の予報が出ていて、そのせいなのか、キャンセルのメールを圭太が一つ確認したところで事件は起こった。

「これ、智香ちゃんのじゃない?」

見ると、手帳のような皮のカバーにボタンのついたノートと白いスマートフォンを手に持っている笹井マネージャーがいた。聞けば、
出窓の上にまるで小物のように置かれていたという。そういえば、いつもの壁側に場所がなくて、その出窓付近に智香は荷物を置いていたのだ。

「仕事用か、プライベートかわからないけど。必要なんじゃないかな。さっきからずっと鳴っているみたいだし」
そしてまたけたたましくスマーホトフォンは揺れる。1分以上はなり続けている。

「僕、届けてきます!」
「今から?」

圭太はその中身に何が入っているのかは知らなない。けど、その小さな手帳サイズのノートは、智香がパソコンに向かっている時や、どこかに電話している時などにも、いつもセットになっていたものなのだ。もしかしたら取材の記録や連絡先、大事なパスワードなんかも記録されているかもしれない。それに、もし仕事に直接の関係がなかったとしても、スマートフォンが手元にないことは現代人にとって不便であることは間違いない。

「たぶん大事なものだと思うんです!ランチ営業までに必ず戻りますから!」

外に出られるだけの最低限の支度をして、店を出た。予報通りに雨は勢いよく降っている。出勤時よりも強まったようだ。それでもノートとスマートフォンは濡れないようにビニールの袋に密封して包んだので、圭太は心置きなく駅までの道を走った。