初めてのキス

時間が、ほんの十分ほど前に巻き戻る。

お昼休みのチャイムが鳴った瞬間、私はお腹の虫の鳴き声に急かされるようにして、ダッシュで購買へと向かった。

そして、最後の一枠に滑り込みで勝ち取った大好物を、教室の席で幸せいっぱいに頬張ったのだ。

そう、さっきまでお昼ご飯を食べていた。

メニューは、購買で大人気の『揚げたてサクサク、スパイスたっぷり激ウマカレーパン』

もう一度言おう。梅村美優、人生の大ピンチである。

今、私の口内を支配しているのは、間違いなくあの濃厚なカレーの残り香だ。

一方で、拓海くんの顔はどんどん近づいてきている。あと十センチもすれば、お互いの吐息が触れ合うほどの至近距離。

このままいけば、何が起こるか。想像しただけで、背筋に冷たい汗が伝う。

一生に一度しか訪れない、神聖で、特別で、一生の記憶に残るはずのファーストキス。

それが、いちご飴のような恋の甘い味でもなく。

ちょっと背伸びしたサイダーの爽やかな味でもなく。

青春の涙の、ちょっぴりしょっぱい味でもなく。

ガッツリ濃厚でスパイシーな、お昼の『カレー味』になりそうなのだ!!!

拓海くんの長いまつ毛が、すぐそこで揺れている。

もう、逃げられない。

――よし。拓海くん、覚悟して。これが私の、カレーパンへの愛の重さよ……!

Fin.