溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

 ただいま野原家は、二人暮らし。

 私、星と、弟の太陽。
 名前がちょっと変わってるって? そうだよね。
 両親いわく「自分の力で光輝く子になってほしい」って願いを込めたらしい。

 ……そうなれてるかどうかは、正直わからないけど。

 とにかく、どんな苦難にも負けずに日々頑張ってます!


 で、なんでうちがこんなに貧乏かっていうと。

 両親は、私が十二歳、太陽が十歳のときに交通事故で亡くなった。

 最初は親戚の家に預けられたんだけど、どうも折り合いが悪くて。
 そこのおばさん、私たちのことをすごく毛嫌いしてたんだよね。

 まあ、自分の子じゃないし。
 親戚とはいえ他人の子を育てるなんて、そりゃ面倒だろうなあ。
 よっぽどいい人じゃないと無理だよ。うんうん。

 それにしても、あのおばさん……。
 ほんと、よっぽど嫌だったんだろうね。

 やっすいぼろ家を見つけてきて「二人で住め」って言ったの。
 家賃は払ってやるから、あとは自分たちでなんとかしろって。
 ――ひどくない? まだ子どもだったのに。

「せめて光熱費だけはお願いします」って頼んだら、しぶしぶ承知してくれたけど。

 そんなわけで、おばさんがこの家を借りてくれて、
 私たち姉弟は、無事にそのぼろ家で暮らすことになった、と。

 まあ、一応“無事”ってことにしておく。

 え? 生活費?
 一応ね、生きるための最低限のお金だけは仕送りしてくれたの。
 本当に最低限だけど。

 だから、生活を切り詰めないと生きていけない。
 めちゃくちゃ節約したよ。

 近所に生えてる草を拾ってきて炒めて食べたり、そのおかげで、雑草にはやたらと詳しくなった。
 スーパーの特売日を狙って買い物したり、店員さんと顔なじみになって、こっそり割引してもらったり。

 私だって、親戚の家を追い出されてここに来たとき、まだ十四歳だったんだ。
 働きたくても働けない。

 それでも新聞配達はしてたよ。
 自分にできることは何でもやりたかったから。
 弟にひもじい思いはさせたくなかったし。

 そんなふうにして、なんとか生き延びてきたって感じかな。


 それでも、生活が厳しいことに変わりはなくて。
 いつだって質素な暮らしをしなくちゃいけない。

 育ち盛りの太陽には、本当に申し訳なくてさ。

 男の子なんだし、もっと食べさせてあげたいのに、毎日貧相な節約料理ばかり。
 服も新しいのなんて買えないから、破れたところを私が縫い合わせて。

 それでも弟は、文句ひとつ言わなかった。

「姉ちゃん、ありがとう」なんて健気に笑ってさ。
 我慢強い子だよ、ほんと。

 あんな弟がいて、私は幸せだ。

 あ、そうそう。
 なんで児童養護施設に行かなかったのかって思うよね?
 普通はそう思うらしい。

 でもね、当時の私はそこまで頭が回らなかったし、
 毎日の生活に必死で考える余裕なんてなかった。

 それに、どうやらおばさんが、こっそり隠してたみたいなんだよね。
 私たちを追い出したこと。

 建前上は「ちゃんと面倒を見てます」って顔をしてたらしい。
 そりゃそうだよね、追い出したなんて言えないし。
 私たちがいないってバレたら面倒だもん。

 正式な住所は、ずっと親戚の家のまま。
 おばさんはこっそり、私たちをこのぼろ家に住まわせてたってわけ。

 邪魔者は遠ざけたい。
 でも世間から責められるのは嫌。
 だから「面倒は見てますよ」ってポーズだけ取ってたんだ。

 ……おばさん、本当に私たちが嫌だったんだね。
 一緒に暮らすなんて、死んでも嫌だったんだろうな。

 ここまでやるかって、正直あきれたよ。

 ご苦労さまです。


 まあ、でもね。
 私も太陽も、今の生活には満足してる。

 だって、あのおばさんと暮らすくらいなら、こっちの方がずっとマシだもん。

 二人で自由に暮らせるし、いじめられることもない。
 うるさく小言を言われることもないしね。



 それから私は十六歳になって、やっとアルバイトができるようになった。
 だから毎日、仕事に精を出してる。

 アルバイトはカフェでの接客。

 これがけっこう時給いいんだよね。
 なんでかって?

 ふっふっふ。それは――“メイド服”で接客してるから!

 そう、私はメイド喫茶で働いてる。
 太陽には「そういうとこやめてよ」って言われるけど、こればっかりは仕方ない。
 だって時給いいんだもん。

 それにね、私が働ける年齢になったとたん、
 おばさんがいきなり仕送りを減らしたんだよ。
 信じられる? どんだけって思った。

 あ、そうそう。
 私たちには、両親が残してくれた遺産があるんだ。
 だったらそれを使えばいいって思うでしょ?
 でも、それにはいっさい手をつけてない。

 両親が残してくれた、たったひとつのものだから。
 それだけは絶対に守るって決めてる。

 ……とはいえ、いつかその時が来るかもしれない。

 それはきっと、太陽のためだ。
 あの子にだけは苦労させたくないって誓ってるから。

 もし太陽に何かあれば、私は迷わずその遺産を使うだろう。

 というか。
 苦労させたくないって思ってたんだけどね。

 太陽、中学生になったとたん新聞配達を始めちゃった。

 いいって言ったのにさ。

「姉ちゃんにだけ格好つけさせない」なんて言って。
 ほんと、いっちょ前に男なんだなあって感心しちゃった。


 ってなわけで、私は貧乏ながらも幸せに暮らしてる。

 ちょっと変わってるでしょ? 普通じゃないよね。
 でもね、もっと驚くことがあるんだ。


 それは、私の彼氏のこと。