ベルナルド侯爵からロベールとの婚約解消を告げられ、2週間が経った今日。アナベルは学園の生徒会室で本を読み耽っていた。
中等部と高等部が併設されている王立の学園で、建設から200年が経っている。全体的に古い建物だが、適度に改修を繰り返し、比較的新しい設備が導入されている。
生徒会室は、学園を象徴する丸いステンドグラス、俗にいうバラ窓がある部屋だ。時間によって色や輝きが変わる室内は、多くの生徒の憧れでもある。
今は期末試験も終わり、貴族の婚礼に合わせ一足先に行われる修了式兼卒業式も先日無事に執り行われた。3年生はすでにいない。
1学年と2学年生は、学年最終試験後の休み期間中だ。
9月に行われる新入生入学準備も、今季はあらかた終わったため学園内には人気があまりない。
生徒会所属のアナベルは、卒業式や入学式準備、その後に2日間程度体調を崩したりと忙しなく過ごしていたが、それがようやく落ち着いたところだ。
生徒会長のニコルに許可をもらい、特別に部屋を使わせてもらっている。
使い込まれたソファに座り、彼女が読んでいるのは昨年流行したロマンス本だ。ローテーブルには、総数5巻が揃った状態で机に置かれている。他にも怪奇譚や旅行記、随想録など、アナベルが今まで読めなかった書籍が積み上がっている。
休みの日に読書など普通のこと。
しかし、なぜ家ではなく、生徒会室で読み耽っているのか。
発端は、彼女の両親の思いやりからであった。
✴︎
性格の難しいベルナルド侯爵家の相手を1人苦労させた挙句、一方的に婚約解消されても何も抵抗できなかった。
アナベルの両親はとても娘に負い目を感じていた。
『せめて夏が本格的に始まる前までは、たっぷり休息を摂ってほしい』
アナベルは今まで休みを取らず、0.1秒も無駄にしない意気込みで色々と取り組んできた。夏からは忙しさが戻るために、彼らはアナベルに今の時間だけでも、習い事や勉強会など予定をしばらく休みにして自由に時間を過ごしたららどうか、と提案したのだ。
アナベルは思案した。ベルナルド家とラッセル家からの慰謝料額は約50年分の稼ぎがあり、悪くない方と考えつつも、己の未熟さゆえに、貴重な侯爵家との繋がりが白紙になってしまったことに酷く申し訳なさを抱いていた。
この機会に改めて自分を正そうと思っていた。
しかし両親が不安のままで過ごさせるのは忍びない。婚約解消から毎日元気のない両親を先に安心させるのが優先だと結論に至った。
アナベルは両親の提案を聞き入れた。両親がほっと胸を撫で下ろし、アナベルは自身の判断は正しかったと確信した。
しかししばらくして、彼女は後悔した。
((お休みって…………何をすればいいの?))
突然手に入った自由時間に、呆然としたのだ。自由な時間ができたなら、もっと勉強に時間を費やしたいが、両親が言う"休む"の意味とは違うと流石にわかる。
好きなことといえば食べることだが、その一回の量は限度があるし、食べ過ぎては身体に悪い。故に却下だ。
かわいい2人の妹と遊ぶ時間を増やそうかと考えたが、もう7歳と5歳だ。姉よりも友達と遊びたい年頃。構いすぎて「今更なによ」と言われたらアナベルは即死のダメージを喰らう。2人と遊ぶのも限度があった。
両親の仕事の手伝いなど、論外中の論外。
((どうしよう…全くわからない))
娘を思った”休み"が、かえって悩みの種になってしまったのだ。悩み悩んだ末に、アナベルが熱を出してしまうほど。
主治医は疲労による体調不良と診断したため、両親の心配は高まってしまった。アナベルは知恵熱だと思っているが、言えば悩んだ原因ー休み方が分からないをーを話さなければならず、両親の顔色が悪くなるに違いなかった。忙しい彼らの気を揉ませたくないアナベルは体調回復後、用事があると偽っては生徒会室を訪れ、夕方まで読書で時間を潰しているのだ。
1冊、また1冊、次の1冊…。
黙々と本を読み進める。時間をたっぷり使い、本を読み耽ったことなどアナベルには過去1度もない。とても貴重な体験をしている充実感に満たされる。
(…もの足らないわ)
アナベルは作者の世界に浸るだけでなく、もう一工夫欲しくなって来た。本の内容ではなく、より読書時間を有意義な方向へできないか、と意識が逸れる。
(例えば…多言語の読解とか良さそうね)
辞書片手に読み書きを学ぶには時間が必要だ。今ならたっぷり時間は残っており、他に誰もいない生徒会室にいる間なら勉強しても両親は分からないのではないか。
(なら、まずは好きな作家の原作探し。絵本からがいいかしら。辞書は家にあるものを持ってきて、あとは紙とペン、それからー)
「やぁアナベル」
思考を巡らせていた所に突然声をかけられ、アナベルは猫の様に飛び上がった。
中等部と高等部が併設されている王立の学園で、建設から200年が経っている。全体的に古い建物だが、適度に改修を繰り返し、比較的新しい設備が導入されている。
生徒会室は、学園を象徴する丸いステンドグラス、俗にいうバラ窓がある部屋だ。時間によって色や輝きが変わる室内は、多くの生徒の憧れでもある。
今は期末試験も終わり、貴族の婚礼に合わせ一足先に行われる修了式兼卒業式も先日無事に執り行われた。3年生はすでにいない。
1学年と2学年生は、学年最終試験後の休み期間中だ。
9月に行われる新入生入学準備も、今季はあらかた終わったため学園内には人気があまりない。
生徒会所属のアナベルは、卒業式や入学式準備、その後に2日間程度体調を崩したりと忙しなく過ごしていたが、それがようやく落ち着いたところだ。
生徒会長のニコルに許可をもらい、特別に部屋を使わせてもらっている。
使い込まれたソファに座り、彼女が読んでいるのは昨年流行したロマンス本だ。ローテーブルには、総数5巻が揃った状態で机に置かれている。他にも怪奇譚や旅行記、随想録など、アナベルが今まで読めなかった書籍が積み上がっている。
休みの日に読書など普通のこと。
しかし、なぜ家ではなく、生徒会室で読み耽っているのか。
発端は、彼女の両親の思いやりからであった。
✴︎
性格の難しいベルナルド侯爵家の相手を1人苦労させた挙句、一方的に婚約解消されても何も抵抗できなかった。
アナベルの両親はとても娘に負い目を感じていた。
『せめて夏が本格的に始まる前までは、たっぷり休息を摂ってほしい』
アナベルは今まで休みを取らず、0.1秒も無駄にしない意気込みで色々と取り組んできた。夏からは忙しさが戻るために、彼らはアナベルに今の時間だけでも、習い事や勉強会など予定をしばらく休みにして自由に時間を過ごしたららどうか、と提案したのだ。
アナベルは思案した。ベルナルド家とラッセル家からの慰謝料額は約50年分の稼ぎがあり、悪くない方と考えつつも、己の未熟さゆえに、貴重な侯爵家との繋がりが白紙になってしまったことに酷く申し訳なさを抱いていた。
この機会に改めて自分を正そうと思っていた。
しかし両親が不安のままで過ごさせるのは忍びない。婚約解消から毎日元気のない両親を先に安心させるのが優先だと結論に至った。
アナベルは両親の提案を聞き入れた。両親がほっと胸を撫で下ろし、アナベルは自身の判断は正しかったと確信した。
しかししばらくして、彼女は後悔した。
((お休みって…………何をすればいいの?))
突然手に入った自由時間に、呆然としたのだ。自由な時間ができたなら、もっと勉強に時間を費やしたいが、両親が言う"休む"の意味とは違うと流石にわかる。
好きなことといえば食べることだが、その一回の量は限度があるし、食べ過ぎては身体に悪い。故に却下だ。
かわいい2人の妹と遊ぶ時間を増やそうかと考えたが、もう7歳と5歳だ。姉よりも友達と遊びたい年頃。構いすぎて「今更なによ」と言われたらアナベルは即死のダメージを喰らう。2人と遊ぶのも限度があった。
両親の仕事の手伝いなど、論外中の論外。
((どうしよう…全くわからない))
娘を思った”休み"が、かえって悩みの種になってしまったのだ。悩み悩んだ末に、アナベルが熱を出してしまうほど。
主治医は疲労による体調不良と診断したため、両親の心配は高まってしまった。アナベルは知恵熱だと思っているが、言えば悩んだ原因ー休み方が分からないをーを話さなければならず、両親の顔色が悪くなるに違いなかった。忙しい彼らの気を揉ませたくないアナベルは体調回復後、用事があると偽っては生徒会室を訪れ、夕方まで読書で時間を潰しているのだ。
1冊、また1冊、次の1冊…。
黙々と本を読み進める。時間をたっぷり使い、本を読み耽ったことなどアナベルには過去1度もない。とても貴重な体験をしている充実感に満たされる。
(…もの足らないわ)
アナベルは作者の世界に浸るだけでなく、もう一工夫欲しくなって来た。本の内容ではなく、より読書時間を有意義な方向へできないか、と意識が逸れる。
(例えば…多言語の読解とか良さそうね)
辞書片手に読み書きを学ぶには時間が必要だ。今ならたっぷり時間は残っており、他に誰もいない生徒会室にいる間なら勉強しても両親は分からないのではないか。
(なら、まずは好きな作家の原作探し。絵本からがいいかしら。辞書は家にあるものを持ってきて、あとは紙とペン、それからー)
「やぁアナベル」
思考を巡らせていた所に突然声をかけられ、アナベルは猫の様に飛び上がった。

