部屋に閉じ込められたアナベルであったが、大人しくするわけもなく。霊場らしからぬ勢いで部屋で騒いでみた、ものの誰にも反応はされなかった。
(脱出できないかしら)
少し息を切らしながら、アナベルは部屋を見渡せる。監禁されているものの、拘束されていないため部屋の中では自由に動けるのだ。
まず窓を確かめると、真新しい柵が施されており、握りゆすろうとするも音すら出ない。部屋の唯一の出入り口である扉には廊下側に見張りがいる。天井や空のクローゼット、ベッド下まで探ってみるも穴すら空いていない。暖炉もない部屋で、絵本のように煙突を登ることすら叶わない。
古びた屋敷だと考えていたが、まだ丈夫であった。
(考えろ、考えろ、考えろ)
アナベルは悔しさに下唇を固く噛み、扉を睨む。最終的には監視の目を盗み、扉からとにかく走って逃げる手段があるが流石に自信がない。来た時同様、魔術を使われてしまえば簡単に捕まる。今以上に監禁は厳しくなってしまう。アナベルは両眉間を強く叩くも、こめかみがジンジンと痛むだけで、何もアイデアが浮かばない。
何か助けになるものはないか。大きくない部屋をうろうろする。テーブルには絵本や小説、スケッチ道具やぬいぐるみなどの暇つぶしアイテム。クローゼットや化粧台には沢山の装飾品に化粧道具、そして新品のドレスが入った箱が積まれていた。箱には手書きでPLと記されている。
装飾品は使えない。壊して後から請求されては面倒だ。鉛筆もクレヨンも…使い道がわからない。
唯一見つけたのは、引き出しを取り外したところから出てきたプレートだ。隠された場所から出てきた銅の薄い板には名前が彫られていた。
(これって…)
聞き覚えはあった。いくつもの犯罪を繰り返していたのが10数年前に明かされ、爵位を没収された子爵。なにより借金を負ったバーンズ家に、いたずらに利子を増やした家でもあったはずだ。
つまり、ここは元々子爵の家。だったが、没落後暮らす人がいなくなってから屋敷だけが取り残されたに違いない。屋敷が古びていた理由もわかる。しかし屋敷の元主人の手がかりがつかめた程度では、今は何の役にも立たない。
あっという間に十七時。外から聞こえる鐘の音は、サイドハウス・ノアにも届いていた保養地区の大聖堂のものだった。
まだ自分は、保養地区内にいるのだということは分かった。
解決策が見つからず、眉間に深い皺が刻まれている。鏡を確認すれば目つきも悪い。
脱出する案がないならば、逃げる体力だけでも得ようと、運ばれてきた食事を摂るも味を感じない。イーサンたちとの楽しい食事を思い出してしまい、涙が流れそうになる。とにかく無理矢理食事を胃に流し込んだ。
「もう、終わりです!娘を巻き込まないでください!」
少し眠ろうと横になってみたが、監禁部屋では休む意志すら湧いてこない。彼女はぼぉっと壁を見ていると、急に怒声が聞こえた。屋敷が騒がしくなる。
何事か。アナベルはベッドから体を起こすと、椅子を寄せ、部屋の隅に移動し、不測の事態に構える。
ギィィ。
建て付けが悪い部屋の扉が開き、背中を押されて入ってきたのはアナベルの両親であった。
アナベルの母アニーは顔を青ざめて涙を浮かべて、父チャーリーは左頬が赤く腫れ、髪はボサボサ、服もかなり乱れていた。
彼らは部屋の片隅にいたアナベルを抱きしめると、何度も頭を下げた。
「すまないアナベル。なんで、なんでこんなことに」
「ごめんなさい。もっと私たちがしっかりしていたら…」
二人は祖父から呼び出しを受け、この屋敷に来たのだと言う。アナベルが説明を受けたのと同じ部屋で、アナベルとイーサンの婚約解消と、3日後のルロワとの結婚の話をされた。
チャーリーは話の最中顔を真っ青にしていたが、話が終わった途端、怒りで頭の中が真っ赤に染まった。感情のまま、父親であるヘンリーにつかみかかったのだ。アナベル同様に男たちに止められたが、チャーリーは抵抗を続け、阻止した男たちに羽交締めにされながら暴れたと言う。
結果、殴り合いになったらしい。しかし当然1人では太刀打ちできず、男たちに取り押さえられた。
(やられた)
アナベルは下唇を噛む。
両親は人質だ。アナベルを大人しくさせるためにわざわざ連れてこられたのだ。両親に危害が及ぶ可能性は少なくないが、二人を置いて脱出するわけにはいかない。それに下手をすれば、幼い妹たちまでに危害が及ぶ。
ヘンリーは暗に伝えているのだ。
アナベルが素直にルロワに嫁げば家族には迷惑はかからない、と。
(あぁ…)
数十年の月日をかけ、一人でバーンズ家を建て直しただけある。知らないだけで、下策にも手を出して来たのだろう。
アナベルの心境を察知したかのように、男たちが部屋に入って来た。
「ミラ様とエメ様は王都の屋敷にいますよ。何も知らずにゆっくりと過ごされています。今は、ね」
その一言で彼女は動けなくなった。アナベルが拒否すれば、妹がルロワに嫁がされる。年端も行かない妹たちがルロワと、この国で結婚は出来ないが、できる国に連れて行かされては手も足も出ない。結婚しなくても、年齢を迎えるまでアナベルの様に監禁されてしまうかもしれないし、記憶を消されてしまう恐れもある。
(ダメよ、ダメ、ダメ、許さない)
そんな残酷な事、強いることはできない。ならばアナベルがすべきは何か。
このまま式を上げ、ルロワと夫婦になること。アナベル・バーンズを殺せばいいだけの話。
今までみたいに、何も感じず、ただひたすらに家のためにと捧げればいい。
元婚約者の時の様に。一番身に染みているやり方だ。
それなのに、アナベルは恐怖で足がすくんでしまっていた。嫌だ、気持ちが悪い、怖い。不安な気持ちで胸がいっぱいになる。
震えている内に、チャーリーとアニーは別の部屋に連れて行かれてしまった。離れたくないと懇願したが、聞き入れられなかった。
再び一人になったアナベルは、どうする事も出来なくなり、ベッドに潜り込んだ。
下唇を噛み、身体を丸める。己の両腕で身体を抱きしめ、そこから這い出る冷たい恐怖に耐えることしかできなかった。
(脱出できないかしら)
少し息を切らしながら、アナベルは部屋を見渡せる。監禁されているものの、拘束されていないため部屋の中では自由に動けるのだ。
まず窓を確かめると、真新しい柵が施されており、握りゆすろうとするも音すら出ない。部屋の唯一の出入り口である扉には廊下側に見張りがいる。天井や空のクローゼット、ベッド下まで探ってみるも穴すら空いていない。暖炉もない部屋で、絵本のように煙突を登ることすら叶わない。
古びた屋敷だと考えていたが、まだ丈夫であった。
(考えろ、考えろ、考えろ)
アナベルは悔しさに下唇を固く噛み、扉を睨む。最終的には監視の目を盗み、扉からとにかく走って逃げる手段があるが流石に自信がない。来た時同様、魔術を使われてしまえば簡単に捕まる。今以上に監禁は厳しくなってしまう。アナベルは両眉間を強く叩くも、こめかみがジンジンと痛むだけで、何もアイデアが浮かばない。
何か助けになるものはないか。大きくない部屋をうろうろする。テーブルには絵本や小説、スケッチ道具やぬいぐるみなどの暇つぶしアイテム。クローゼットや化粧台には沢山の装飾品に化粧道具、そして新品のドレスが入った箱が積まれていた。箱には手書きでPLと記されている。
装飾品は使えない。壊して後から請求されては面倒だ。鉛筆もクレヨンも…使い道がわからない。
唯一見つけたのは、引き出しを取り外したところから出てきたプレートだ。隠された場所から出てきた銅の薄い板には名前が彫られていた。
(これって…)
聞き覚えはあった。いくつもの犯罪を繰り返していたのが10数年前に明かされ、爵位を没収された子爵。なにより借金を負ったバーンズ家に、いたずらに利子を増やした家でもあったはずだ。
つまり、ここは元々子爵の家。だったが、没落後暮らす人がいなくなってから屋敷だけが取り残されたに違いない。屋敷が古びていた理由もわかる。しかし屋敷の元主人の手がかりがつかめた程度では、今は何の役にも立たない。
あっという間に十七時。外から聞こえる鐘の音は、サイドハウス・ノアにも届いていた保養地区の大聖堂のものだった。
まだ自分は、保養地区内にいるのだということは分かった。
解決策が見つからず、眉間に深い皺が刻まれている。鏡を確認すれば目つきも悪い。
脱出する案がないならば、逃げる体力だけでも得ようと、運ばれてきた食事を摂るも味を感じない。イーサンたちとの楽しい食事を思い出してしまい、涙が流れそうになる。とにかく無理矢理食事を胃に流し込んだ。
「もう、終わりです!娘を巻き込まないでください!」
少し眠ろうと横になってみたが、監禁部屋では休む意志すら湧いてこない。彼女はぼぉっと壁を見ていると、急に怒声が聞こえた。屋敷が騒がしくなる。
何事か。アナベルはベッドから体を起こすと、椅子を寄せ、部屋の隅に移動し、不測の事態に構える。
ギィィ。
建て付けが悪い部屋の扉が開き、背中を押されて入ってきたのはアナベルの両親であった。
アナベルの母アニーは顔を青ざめて涙を浮かべて、父チャーリーは左頬が赤く腫れ、髪はボサボサ、服もかなり乱れていた。
彼らは部屋の片隅にいたアナベルを抱きしめると、何度も頭を下げた。
「すまないアナベル。なんで、なんでこんなことに」
「ごめんなさい。もっと私たちがしっかりしていたら…」
二人は祖父から呼び出しを受け、この屋敷に来たのだと言う。アナベルが説明を受けたのと同じ部屋で、アナベルとイーサンの婚約解消と、3日後のルロワとの結婚の話をされた。
チャーリーは話の最中顔を真っ青にしていたが、話が終わった途端、怒りで頭の中が真っ赤に染まった。感情のまま、父親であるヘンリーにつかみかかったのだ。アナベル同様に男たちに止められたが、チャーリーは抵抗を続け、阻止した男たちに羽交締めにされながら暴れたと言う。
結果、殴り合いになったらしい。しかし当然1人では太刀打ちできず、男たちに取り押さえられた。
(やられた)
アナベルは下唇を噛む。
両親は人質だ。アナベルを大人しくさせるためにわざわざ連れてこられたのだ。両親に危害が及ぶ可能性は少なくないが、二人を置いて脱出するわけにはいかない。それに下手をすれば、幼い妹たちまでに危害が及ぶ。
ヘンリーは暗に伝えているのだ。
アナベルが素直にルロワに嫁げば家族には迷惑はかからない、と。
(あぁ…)
数十年の月日をかけ、一人でバーンズ家を建て直しただけある。知らないだけで、下策にも手を出して来たのだろう。
アナベルの心境を察知したかのように、男たちが部屋に入って来た。
「ミラ様とエメ様は王都の屋敷にいますよ。何も知らずにゆっくりと過ごされています。今は、ね」
その一言で彼女は動けなくなった。アナベルが拒否すれば、妹がルロワに嫁がされる。年端も行かない妹たちがルロワと、この国で結婚は出来ないが、できる国に連れて行かされては手も足も出ない。結婚しなくても、年齢を迎えるまでアナベルの様に監禁されてしまうかもしれないし、記憶を消されてしまう恐れもある。
(ダメよ、ダメ、ダメ、許さない)
そんな残酷な事、強いることはできない。ならばアナベルがすべきは何か。
このまま式を上げ、ルロワと夫婦になること。アナベル・バーンズを殺せばいいだけの話。
今までみたいに、何も感じず、ただひたすらに家のためにと捧げればいい。
元婚約者の時の様に。一番身に染みているやり方だ。
それなのに、アナベルは恐怖で足がすくんでしまっていた。嫌だ、気持ちが悪い、怖い。不安な気持ちで胸がいっぱいになる。
震えている内に、チャーリーとアニーは別の部屋に連れて行かれてしまった。離れたくないと懇願したが、聞き入れられなかった。
再び一人になったアナベルは、どうする事も出来なくなり、ベッドに潜り込んだ。
下唇を噛み、身体を丸める。己の両腕で身体を抱きしめ、そこから這い出る冷たい恐怖に耐えることしかできなかった。

