「いつも貴方に見つかる理由がようやく分かったわ」
アナベルは、まっすぐ夕陽の色を反射しているライトグリーンの瞳を見つめた。同じく夕日を浴びているアナベルは、困っているようにも、呆れているような表情を浮かべている。しかしその心は長い間の疑問もようやく解けて、スッキリしている。初めから知っていたのだ。会場を見渡してアナベルがいなければ、料理の並ぶテーブルにいると確信しただろう。明かされれば簡単だ。
「本当なら君の秘密に触れるべきではなかったよね」
イーサンは苦笑する。両親にも見つからないように、アナベルは隠れていたのに。子息に見つかった彼女の心情は、顔にありありと浮かんでいた。驚愕、困惑、絶句、恐怖。
「…それでも。私の元に来たのは?」
「楽しい時間を過ごせているかなって気になって。アイザックたちの料理を気に入ったか知りたかったし」
単純に、幼いイーサンは自慢の料理人たちの料理をアナベルが楽しんでくれているかを知りたかった。顔を覗かせた途端目が合うとは思っていなかったのはイーサンも同じであった。
とはいえ子供の好奇心で軽率な行動だったと、彼は反省している。神話や伝説では秘密を暴かれた者は死んでしまう場合もあるぐらいだ。みるみる酷い顔になっていく彼女に選択を間違えたのだとイーサンは直感したが、逃げては状況は悪化するだけ。
咄嗟に近くにあったパンを掴み、大きな口で齧り付いたのであった。
「弱みを利用して何かできたかもしれないのに。叶うかも分からない恋心を大切にしてきたのね」
「それは私の求める関係じゃない。それに諦められなかった、そばにいたかった自己満足ゆえの行動さ」
「…伝えようとは思わなかったのね」
「伝えていたら、もう二度と会わなかっただろう?」
するとアナベルは口角を上げた。アナベルに一切彼への気持ちがなくても、ベルナルド侯爵家に疑われれば、バーンズ伯爵家が築いてきた信用が失われる。身の潔白を示すために、間違いなくイーサンとは縁を切った。
やはりイーサンはよく理解している。アナベル以上にアナベルを知っている。
「まったく。貴方たちには敵わないわ。ずっと驚かされてばかり」
アナベルは天を仰ぐ。空はすっかり赤く染まっている。
本当に誰が想像できただろう。侯爵家の一人息子が、たった1人の令嬢を思い続けていたなんて。それも家族や使用人たちも全員想いを知りながら貝の如く口を閉ざしていたのだ。十一年、子供が成人近い年齢になる年月を、全てを了承した上で友人の1人ーそして家族と使用人、ただの第三者ーとして、好意を一切漏らすことなく接してきてくれたのだ。先日ーーイーサンの友人の一人である画家ーーフローリスが酷く興奮していた理由も分かる気がする。
それでも不思議と恐ろしさよりも驚きが勝るのは、既に毒されているのか、自分ごとと考えられていないのか。それとも、やはり。
「ありがとうイーサン。ずっとずっと想い、考えてくれて。その上相談にも乗ってくれて…おかげで何度も救われたわ。本当に」
アナベルはイーサンに頭を下げた。彼が長年寄り添ってくれたのは事実だ。特に元婚約者との関係で散々相談に乗ってもらっていた。聞きたくもない話であっただろうに毎回真摯に向き合ってくれた。両親に相談しにくかったアナベルは、イーサンのおかげで一人で悩み続けずに済んだ。心の底から感謝している。
「その上で私は、伝えないといけない」
顔を上げたアナベルは、再び、まっすぐまっすぐ、イーサンを見据えた。
「イーサン、私は貴方を愛せないかもしれない」
アナベルは、まっすぐ夕陽の色を反射しているライトグリーンの瞳を見つめた。同じく夕日を浴びているアナベルは、困っているようにも、呆れているような表情を浮かべている。しかしその心は長い間の疑問もようやく解けて、スッキリしている。初めから知っていたのだ。会場を見渡してアナベルがいなければ、料理の並ぶテーブルにいると確信しただろう。明かされれば簡単だ。
「本当なら君の秘密に触れるべきではなかったよね」
イーサンは苦笑する。両親にも見つからないように、アナベルは隠れていたのに。子息に見つかった彼女の心情は、顔にありありと浮かんでいた。驚愕、困惑、絶句、恐怖。
「…それでも。私の元に来たのは?」
「楽しい時間を過ごせているかなって気になって。アイザックたちの料理を気に入ったか知りたかったし」
単純に、幼いイーサンは自慢の料理人たちの料理をアナベルが楽しんでくれているかを知りたかった。顔を覗かせた途端目が合うとは思っていなかったのはイーサンも同じであった。
とはいえ子供の好奇心で軽率な行動だったと、彼は反省している。神話や伝説では秘密を暴かれた者は死んでしまう場合もあるぐらいだ。みるみる酷い顔になっていく彼女に選択を間違えたのだとイーサンは直感したが、逃げては状況は悪化するだけ。
咄嗟に近くにあったパンを掴み、大きな口で齧り付いたのであった。
「弱みを利用して何かできたかもしれないのに。叶うかも分からない恋心を大切にしてきたのね」
「それは私の求める関係じゃない。それに諦められなかった、そばにいたかった自己満足ゆえの行動さ」
「…伝えようとは思わなかったのね」
「伝えていたら、もう二度と会わなかっただろう?」
するとアナベルは口角を上げた。アナベルに一切彼への気持ちがなくても、ベルナルド侯爵家に疑われれば、バーンズ伯爵家が築いてきた信用が失われる。身の潔白を示すために、間違いなくイーサンとは縁を切った。
やはりイーサンはよく理解している。アナベル以上にアナベルを知っている。
「まったく。貴方たちには敵わないわ。ずっと驚かされてばかり」
アナベルは天を仰ぐ。空はすっかり赤く染まっている。
本当に誰が想像できただろう。侯爵家の一人息子が、たった1人の令嬢を思い続けていたなんて。それも家族や使用人たちも全員想いを知りながら貝の如く口を閉ざしていたのだ。十一年、子供が成人近い年齢になる年月を、全てを了承した上で友人の1人ーそして家族と使用人、ただの第三者ーとして、好意を一切漏らすことなく接してきてくれたのだ。先日ーーイーサンの友人の一人である画家ーーフローリスが酷く興奮していた理由も分かる気がする。
それでも不思議と恐ろしさよりも驚きが勝るのは、既に毒されているのか、自分ごとと考えられていないのか。それとも、やはり。
「ありがとうイーサン。ずっとずっと想い、考えてくれて。その上相談にも乗ってくれて…おかげで何度も救われたわ。本当に」
アナベルはイーサンに頭を下げた。彼が長年寄り添ってくれたのは事実だ。特に元婚約者との関係で散々相談に乗ってもらっていた。聞きたくもない話であっただろうに毎回真摯に向き合ってくれた。両親に相談しにくかったアナベルは、イーサンのおかげで一人で悩み続けずに済んだ。心の底から感謝している。
「その上で私は、伝えないといけない」
顔を上げたアナベルは、再び、まっすぐまっすぐ、イーサンを見据えた。
「イーサン、私は貴方を愛せないかもしれない」

