レディ・クロックの夏休み〜働き者の令嬢は、婚約破棄により「お休み」いたします?!〜

 アナベルの少し日に焼けた頬には、レティシアに揉まれた指の感覚が残っている。
 ビジューの件で、レティシアにむにむにと捏ね回されたのだ。

『何か気にすることがあれば、嘘も偽りもなく教えるから、アナベルはどんどん聞いていいのよ!』

『不安にさせてごめんよ。全然ビジューとはそんな仲じゃないから、検討も行かなかった……。もっと気を配るね』

 レティシアの気遣う表情に、イーサンの真剣な眼差し。それを受けたアナベルの、強い心臓はずきりと痛んだ。
 自室に戻った彼女は、泣き出す寸前の子供のようにその場にうずくまる。

(違う、違うのよ)

 聞けなかったのは、正直自分でも分かっていない。ただ何故か足踏みしてしまった。
 イーサンのことは信頼している。下手をすれば家族よりも、同性の友人よりも、信じている。
 彼からの言葉も、与えられる愛も。過ごす時間も全て素晴らしいものだ。彼の家族も同様だ。
 ただ、ただ。
 グツグツと低温で煮立つばかりの感情を解消できず、アナベルはじっと膝を抱えたまま動けなかった。

 どうすれば、いいのか。
 私はこのままでいいのだろうか。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………そもそも、自分は一体何に、悩んでいるのだろうか。