レディ・クロックの夏休み〜働き者の令嬢は、婚約破棄により「お休み」いたします?!〜

「ロベールとミシェル嬢との間に子供ができた。慰謝料は、その小切手に好きな額を書いていい。ロベールとの婚約は解消してもらう」

 ベルナルド家の屋敷に戻ると、ロベールは1人で馬車を降りた。アナベルに声をかけることもなく、彼女をバーンズ家へと送るよう御者に命令すると、急ぎ屋敷の中へと駆け込んだ。
 何をそんなに急いでいるのかと、一瞬疑問を浮かべたアナベルであったが、すっかり疲れ果ててしまい、すでに家に帰ってからの予定を考え始めていた。

 事の真相が判明したのは、夜会から3日後のこと。
 ロベールの父親であるベルナルド侯爵より、突然の呼び出しを受けた。朝一番で馬車が迎えに来るなど過去に例がない。アナベルは、父チャーリーとともにベルナルド邸を訪問した。
 書斎に通されるやいなや1枚の、白紙の小切手を渡され婚約解消を告げられる。
 微塵も想定していなかった展開に、一瞬、言葉に詰まったのが運の尽き。ベルナルド侯爵は、2人に反論の隙すら与えず、まとめられた荷物と共に彼らを屋敷から叩き出した。

(終わりはあっけないものね)

 よく考えれば、当たり前の結末だ。あれほど親密だったのだ。むしろその可能性に考えが至らなかった自身を、アナベルは責めた
 しかしもう後の祭りだ。財力も権利も武力もベルナルド家、ラッセル家共に劣るバーンズ家では、対抗の手段はない。いくら父が憤慨しようが、母が泣き崩れようが決定は覆らない。

 後日弁護士を交えて協議した結果、決定した慰謝料額は平民であれば、贅沢をしなければ仕事をせずに暮らせる金額であった。そしてラッセル家からも同額支払われたために、その合計金額は過去最高だと、婚約解消が正式発表された際、世間の大きな話題になった。