レディ・クロックの夏休み〜働き者の令嬢は、婚約破棄により「お休み」いたします?!〜

「で。夜会で何かあったの?」

 夜になっても輝きを失わない太陽の化身、レティシアが息子に問う。イーサンの部屋には他に、ソフィアにポーラ、ジャック、そしてアイザックが揃っている。
 相談の内容は、アナベルについてだ。

 夜会で、アナベルがエロイーズと話してから少し変わった印象を受け、馬車の中でも屋敷に戻ってからも、彼女は言葉少なめで、何か思案している様子が見受けられた。

「では、イーサン様との関係について触れられたのでしょう」

「やっぱりそうだよね…。どんな話したんだろう」

 2人の険悪な雰囲気はなく、むしろアナベルは華やかに祝われているようだった。しかし難しいのは、どんなに喜ばしい話でも、受け取る側次第で深刻な問題へ変貌するということだ。
 まして恋愛などアナベルにとって苦手分野である案件。考えねばならない、と意識が傾いているのは想像に難くない。
 素直にアナベルに問うか悩んだが、悩みを隠す恐れがあるため安易に動けなかった。まずは人生経験が長く、子供の時からアナベルをよく知る大人たちにイーサンは助言を求めることにしたのだ。

「人間関係に答えはないのですからねぇ。それとも今から”イーサンアナベル熱烈仲良し化計画”にでも変えますか?」

 ポーラの提案に、イーサンは「しない」と即答する。
 初日にイーサンに詰め寄った彼女も、アナベルをただ放置するのは得策では無いと考えるようになっていた。レティシアたちも信頼関係を築いている2人の仲が拗れるのは忌避したい。
 
「方向は幾つもありません。話を聞けない以上、見守るか意識を逸らすか」

「逸らす?」

 2つの方向性を示すソフィアに、イーサンが聞き返せば、彼女はより分かりやすく説明を続けた。

「はい。新しい題目へ集中させてしまう。悩みそのものに蓋をする訳です」

 臭い物に蓋をする。すぐできるお手軽手段であるが、長期的対策としては悪手ではある問題解決にはならないからだ。それを分かっているため、案を出したソフィア自身の、複雑そうな色も浮かんでいる。

「即興案だとそれよねぇ……」

「そもそも本当に悩まれているのか、きちんと確認はした方が確実でしょうな」

 ジャックが、アナベルの違和感はイーサンの所感でしかないと指摘し、探りを入れるべきだと主張した。確かに、久しぶりの夜会で疲れている可能性もある。

「まずはスパイ活動ってわけですか……」

ポーラがニヤリと笑った。これは面白いことを思いついた時に浮かべる、悪い笑みだ。

「さぁこの老体を活かしますかね」