アナベルとロベールの関係が改善することはあるのか。
『ないよ、ない。そんな未来は絶対に』
デービッドは断言した。
それは言った通りになった。
ロベールとアナベルの仲は断絶。
浮気相手と過ごすロベールに対し、ベルナルド侯爵についていた想い人は、仕事や勉学に目まぐるしく過ごす日々を送った。
さらに妊娠により、ベルナルド家とバーンズ家の婚約は破棄された。
複雑な思いであったが、両親の力も借りて己の願いに手を伸ばしたイーサンは、アナベルと婚約者となった。
順当に行けば結婚、晴れて夫婦となる。
だがアナベルが彼に対して、恋愛感情を持ち得ていないのは誰から見ても明白であり、彼の恋が叶ったとは言えない。
サイドハウス・ノアに連れてくると聞いていた使用人たちは、夏休み中にイーサンがアナベルに、熱烈にアタックすると思っていた。
『この夏、アナベルと仲を進ませようとは考えていない』
サイドハウス・ノアに連れてこられたアナベルが、心底疲れて夢の中にいる時のこと。
使用人たちを集めたイーサンは、長年協力してくれた彼らに礼を伝え、そして今後について宣言した。
彼の宣言に、ざわりと場が揺らぐ、ざわめきは大きく広がる。
『正気ですか?』『怯みましたか!』『意気地なしです』『今こそ好機でしょうに』『奥手!』
散々な言葉が投げられたが、誰よりも大きな声で食ってかかったのはポーラであった。
『ほぉ、愛を紡が無いなんてなんて中途半端な。では夏に何を求めているのです?』
要所要所でアナベルにアプローチはかける前提だとして、イーサンは己の望みを口にした。
『アナベルに…わがままを言って貰いたい』
家のために家族のために。特にロベールとの仲が修復されないとわかってからは、己の役割に徹し続けた。他者への関心は強いが、その分自分の都合や気持ちは常に後回し。
今ではアナベル本位の感情や行動が少なくなっていた。やりたいことも、食べたいものも、してみたいことも。誰かを基準にしなければ動けない。
アナベルは自分を蔑ろにしすぎた。
彼女が望んで毎日奮闘していた、生涯をかけて務めを果たそうと意欲的に取り組んできたことに『休んで欲しい』など烏滸がましい。ただの友達がーキャンベル家にとって宝物の娘でもー彼女の人生に干渉するには関係が薄かった。考えて、可能な限りその側にいたが、それだけであった。
婚約者となった今、ようやくでしゃばることができる。彼女と想い合えるならとっても幸せだけれど、何よりも優先すべきは"アナベル"だ。
『なるほど。言い分はわかりました。確かに今のおひいさまは何かと諦観しているようですね。しかし…なんて傲慢で、上から目線なのでしょう。特に好意を伝える訳でもない。まるで子供を導く親。それは婚約者である貴方が成すべきことですか?』
イーサンの考えに、ポーラの言葉が鋭く飛ぶ。使用人が雇い主の子息にかける言葉としては不敬だが皆知りたいのだ。じっと彼の動向を見守る。
イーサンは一度周囲を見渡すと、再び真っ直ぐポーラを見つめる。
『嫌なんだ。それだけ、は。婚約者として、家のために尽くすアナベル。それ自体は問題ない。そんな彼女も大好きだ。けれど、役割を演じ、心を、自分を偽ってほしくない。嫌なら嫌だと怒り、声をあげて、笑うならば腹を抱えて。貪欲に生き、欲を振り回す』
簡単に言えば、アナベルの全てと共にありたい。
そしてどんな彼女にも応えられる、男でありたい。
それが『紳士の中の紳士』と謳われる、青年の本心である。
『…なんて強欲、いや執着。あの方もとんだ男に捕まったものです』
呆れ果てたと大きくため息を付く老メイドに、イーサンはゆるりと微笑み、イーサンは自分を囲む優秀な彼らに願う。
『だからどうかアナベルの味方であって欲しい』
半眼で顔を顰める彼女に「ポーラだって、アナベルが貴族界を縦横無尽に駆け回ってる方が面白いんだろう?」と問えば、「当たり前です」と言い切った。
ポーラはアナベルの負けん気が強い性格が大のお気に入りだ。昔はなにかと挑んできたが、久しぶりに会えば刃先がぬるくなってしまい残念に思っていたのは内緒である。
『…とりあえずお好きな物をたくさん作ればよろしいですか?』
『アイザック』
ソフィアがこめかみを抑えた。どっと笑い声が上がる。当の本人はきょとんと目を丸めたが「とにかく美味しい物を作ります!」と強く意気込む。早速厨房に飛び込む勢いだ。イーサンが保養地区の名産を使った料理を出して欲しいと頼めば、料理人たちは力強く頷いた。
首を横に振りながら、ふぅと息を吐くポーラ。
チラリとソフィアに目配せする。気は済んだようだ。
『イーサン様、私からも少々…。いつかは話し合わなければいけない時がありますでしょう。その時は逃げずに立ち向かってくださいませ。あとアナベル様が嫌がることはもちろんダメです』
緊張した場も和み、使用人たちはイーサンに改めて向き合う。
『それでも我々はイーサン様の味方でもあります。お二人が悩むなら、いつでもお力をお貸しします。どうか幸せをお掴みくださいませ」
『ありがとう。彼女には建前として仲を進めたいとは伝えるけど、 1番は遊ぶことに注力したい。まだまだ頼りない私だけど、どうか力を貸して欲しい』
これが9日前のこと。
朝を迎え、慌てた様子のアナベルと対面した時には顔を逸らされ、仲を深めるよりも遊ぼうと言えば生ぬるいと言われたのは肝が相当冷えたが、時間が経つにつれ元の彼女に戻っていった。順調に夏休みを過ごしていた。
はずだった。
イーサンは、夜会から帰ってくるや否や相談会ー2回目。第1回目はアナベルの夢についてーを開いていた。
『ないよ、ない。そんな未来は絶対に』
デービッドは断言した。
それは言った通りになった。
ロベールとアナベルの仲は断絶。
浮気相手と過ごすロベールに対し、ベルナルド侯爵についていた想い人は、仕事や勉学に目まぐるしく過ごす日々を送った。
さらに妊娠により、ベルナルド家とバーンズ家の婚約は破棄された。
複雑な思いであったが、両親の力も借りて己の願いに手を伸ばしたイーサンは、アナベルと婚約者となった。
順当に行けば結婚、晴れて夫婦となる。
だがアナベルが彼に対して、恋愛感情を持ち得ていないのは誰から見ても明白であり、彼の恋が叶ったとは言えない。
サイドハウス・ノアに連れてくると聞いていた使用人たちは、夏休み中にイーサンがアナベルに、熱烈にアタックすると思っていた。
『この夏、アナベルと仲を進ませようとは考えていない』
サイドハウス・ノアに連れてこられたアナベルが、心底疲れて夢の中にいる時のこと。
使用人たちを集めたイーサンは、長年協力してくれた彼らに礼を伝え、そして今後について宣言した。
彼の宣言に、ざわりと場が揺らぐ、ざわめきは大きく広がる。
『正気ですか?』『怯みましたか!』『意気地なしです』『今こそ好機でしょうに』『奥手!』
散々な言葉が投げられたが、誰よりも大きな声で食ってかかったのはポーラであった。
『ほぉ、愛を紡が無いなんてなんて中途半端な。では夏に何を求めているのです?』
要所要所でアナベルにアプローチはかける前提だとして、イーサンは己の望みを口にした。
『アナベルに…わがままを言って貰いたい』
家のために家族のために。特にロベールとの仲が修復されないとわかってからは、己の役割に徹し続けた。他者への関心は強いが、その分自分の都合や気持ちは常に後回し。
今ではアナベル本位の感情や行動が少なくなっていた。やりたいことも、食べたいものも、してみたいことも。誰かを基準にしなければ動けない。
アナベルは自分を蔑ろにしすぎた。
彼女が望んで毎日奮闘していた、生涯をかけて務めを果たそうと意欲的に取り組んできたことに『休んで欲しい』など烏滸がましい。ただの友達がーキャンベル家にとって宝物の娘でもー彼女の人生に干渉するには関係が薄かった。考えて、可能な限りその側にいたが、それだけであった。
婚約者となった今、ようやくでしゃばることができる。彼女と想い合えるならとっても幸せだけれど、何よりも優先すべきは"アナベル"だ。
『なるほど。言い分はわかりました。確かに今のおひいさまは何かと諦観しているようですね。しかし…なんて傲慢で、上から目線なのでしょう。特に好意を伝える訳でもない。まるで子供を導く親。それは婚約者である貴方が成すべきことですか?』
イーサンの考えに、ポーラの言葉が鋭く飛ぶ。使用人が雇い主の子息にかける言葉としては不敬だが皆知りたいのだ。じっと彼の動向を見守る。
イーサンは一度周囲を見渡すと、再び真っ直ぐポーラを見つめる。
『嫌なんだ。それだけ、は。婚約者として、家のために尽くすアナベル。それ自体は問題ない。そんな彼女も大好きだ。けれど、役割を演じ、心を、自分を偽ってほしくない。嫌なら嫌だと怒り、声をあげて、笑うならば腹を抱えて。貪欲に生き、欲を振り回す』
簡単に言えば、アナベルの全てと共にありたい。
そしてどんな彼女にも応えられる、男でありたい。
それが『紳士の中の紳士』と謳われる、青年の本心である。
『…なんて強欲、いや執着。あの方もとんだ男に捕まったものです』
呆れ果てたと大きくため息を付く老メイドに、イーサンはゆるりと微笑み、イーサンは自分を囲む優秀な彼らに願う。
『だからどうかアナベルの味方であって欲しい』
半眼で顔を顰める彼女に「ポーラだって、アナベルが貴族界を縦横無尽に駆け回ってる方が面白いんだろう?」と問えば、「当たり前です」と言い切った。
ポーラはアナベルの負けん気が強い性格が大のお気に入りだ。昔はなにかと挑んできたが、久しぶりに会えば刃先がぬるくなってしまい残念に思っていたのは内緒である。
『…とりあえずお好きな物をたくさん作ればよろしいですか?』
『アイザック』
ソフィアがこめかみを抑えた。どっと笑い声が上がる。当の本人はきょとんと目を丸めたが「とにかく美味しい物を作ります!」と強く意気込む。早速厨房に飛び込む勢いだ。イーサンが保養地区の名産を使った料理を出して欲しいと頼めば、料理人たちは力強く頷いた。
首を横に振りながら、ふぅと息を吐くポーラ。
チラリとソフィアに目配せする。気は済んだようだ。
『イーサン様、私からも少々…。いつかは話し合わなければいけない時がありますでしょう。その時は逃げずに立ち向かってくださいませ。あとアナベル様が嫌がることはもちろんダメです』
緊張した場も和み、使用人たちはイーサンに改めて向き合う。
『それでも我々はイーサン様の味方でもあります。お二人が悩むなら、いつでもお力をお貸しします。どうか幸せをお掴みくださいませ」
『ありがとう。彼女には建前として仲を進めたいとは伝えるけど、 1番は遊ぶことに注力したい。まだまだ頼りない私だけど、どうか力を貸して欲しい』
これが9日前のこと。
朝を迎え、慌てた様子のアナベルと対面した時には顔を逸らされ、仲を深めるよりも遊ぼうと言えば生ぬるいと言われたのは肝が相当冷えたが、時間が経つにつれ元の彼女に戻っていった。順調に夏休みを過ごしていた。
はずだった。
イーサンは、夜会から帰ってくるや否や相談会ー2回目。第1回目はアナベルの夢についてーを開いていた。

