日が昇り始める4時に、アナベルは目を覚ました。
体を起こして、ぼんやりと彼女は部屋を見つめる。深く息を吸えば、鼻から肺、全身の隅々へと清々しい香りで満たされる。まだ残る眠気に千鳥足になりながら、バルコニーへ出る。柵にもたれ、緩い夏の風を浴びる。
ここは王都ではない。
馬に乗り3時間の場所、保養地区にある「サイドハウス・ノア」。キャンベル家が毎夏に過ごす屋敷であり、イーサンの婚約者となったアナベルの為の部屋である。
✴︎
『夏休みを利用して仲を深めるべきだ』という侯爵夫妻に賛同した彼女の両親は、早速使用人たちにアナベルの荷物をまとめるよう指示を出した。
そこからは怒涛であった。
キャンベル家に負けないバーンズ家の優秀な使用人たちは、あっという間に荷物をまとめると、キャンベル家の馬車に積み込んだ。やたら荷物が積み上がった馬車が止まっていると思ったら、キャンベル家のものであったのだ。
どうやらアナベルの保養地行きは、最初から決められていたらしい。この調子では、もし告白を断ったとしても保養地に連れて行かれたに違いない。半眼で馬車を見つめる娘を尻目に、家族は会話を弾ませている。
『娘をお願いいたします』
『こちらこそ。私たちにとっても大事な義理の娘だからね』
『向こうに到着次第、ご連絡します』
『着いたら時々でいいから手紙を送ってねアナベル。それではよろしくお願いします。イーサン、侯爵ご夫妻』
『えぇ、最高の休みにしますわアニー!』
『お姉様、お土産よろしくね!』
『んね!』
家族と使用人たちはアナベルを笑顔で送り出した。
途中、馬車はキャンベル家に立ち寄り、デービッドは馬車から降りた。彼はまだ仕事が残っており、数日後に合流するとのこと。
『良い夏を過ごそう。それでは後で』
アナベルとイーサン、レティシアを乗せた馬車は颯爽と道を駆け、保養地区にあるサイドハウス・ノアに到着した。そこにはすでに、本邸の使用人であるソフィアやジャック、アイザックたちがいた。
アナベルが馬車から降りると皆嬉しそうに、また1人の主人として出迎えてくれたのだ。
『アナベル様。どうか末永くよろしくお願いいたします』
ソフィアの言葉に、アナベルはゆっくり頷くことしかできなかった。
それから数日間。夢のようなひと時を、アナベルは毎日振り返る。
「…まいにち、たのしすぎる」
婚約者として、バーンズ家の1人として成すべきことはあるというのに。
全てを差し置いてそう思ってしまう自分は、なんて非情なのだろう。
アナベルは顔を覆いながらも、今日の夏休みの予定に、ワクワクする期待を抑えきれずにいた。
体を起こして、ぼんやりと彼女は部屋を見つめる。深く息を吸えば、鼻から肺、全身の隅々へと清々しい香りで満たされる。まだ残る眠気に千鳥足になりながら、バルコニーへ出る。柵にもたれ、緩い夏の風を浴びる。
ここは王都ではない。
馬に乗り3時間の場所、保養地区にある「サイドハウス・ノア」。キャンベル家が毎夏に過ごす屋敷であり、イーサンの婚約者となったアナベルの為の部屋である。
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『夏休みを利用して仲を深めるべきだ』という侯爵夫妻に賛同した彼女の両親は、早速使用人たちにアナベルの荷物をまとめるよう指示を出した。
そこからは怒涛であった。
キャンベル家に負けないバーンズ家の優秀な使用人たちは、あっという間に荷物をまとめると、キャンベル家の馬車に積み込んだ。やたら荷物が積み上がった馬車が止まっていると思ったら、キャンベル家のものであったのだ。
どうやらアナベルの保養地行きは、最初から決められていたらしい。この調子では、もし告白を断ったとしても保養地に連れて行かれたに違いない。半眼で馬車を見つめる娘を尻目に、家族は会話を弾ませている。
『娘をお願いいたします』
『こちらこそ。私たちにとっても大事な義理の娘だからね』
『向こうに到着次第、ご連絡します』
『着いたら時々でいいから手紙を送ってねアナベル。それではよろしくお願いします。イーサン、侯爵ご夫妻』
『えぇ、最高の休みにしますわアニー!』
『お姉様、お土産よろしくね!』
『んね!』
家族と使用人たちはアナベルを笑顔で送り出した。
途中、馬車はキャンベル家に立ち寄り、デービッドは馬車から降りた。彼はまだ仕事が残っており、数日後に合流するとのこと。
『良い夏を過ごそう。それでは後で』
アナベルとイーサン、レティシアを乗せた馬車は颯爽と道を駆け、保養地区にあるサイドハウス・ノアに到着した。そこにはすでに、本邸の使用人であるソフィアやジャック、アイザックたちがいた。
アナベルが馬車から降りると皆嬉しそうに、また1人の主人として出迎えてくれたのだ。
『アナベル様。どうか末永くよろしくお願いいたします』
ソフィアの言葉に、アナベルはゆっくり頷くことしかできなかった。
それから数日間。夢のようなひと時を、アナベルは毎日振り返る。
「…まいにち、たのしすぎる」
婚約者として、バーンズ家の1人として成すべきことはあるというのに。
全てを差し置いてそう思ってしまう自分は、なんて非情なのだろう。
アナベルは顔を覆いながらも、今日の夏休みの予定に、ワクワクする期待を抑えきれずにいた。

