「……意味、わかんない……」
私が小さく呟いたら、天海くんは掴んでた手首をちょっと緩めて、そのまま私の手を包み込むみたいに握り直してきた。
「意味、分からせてあげよっか?」
天海くんが、ゆっくり顔を近づけてくる。
夕方の教室は、オレンジ色からだんだん紫色の影が混じり始めてて、私たちの影が床に長く伸びて重なってた。
「……ん」
思わず目を瞑ってしまった私に、天海くんはふっと優しく笑う。
そして、おでこに柔らかいものが触れた。
「っ……!」
「まずは、おでこね。これは挨拶」
目を開けたら、天海くんの顔がすぐそこ。
彼の綺麗な顔がちょっと赤くなってるのが見えて、あ、この人も緊張してんだ、って場違いなこと思ってしまった。
「天海くん、顔、赤い……」
「……うるさい。佐野ちゃんが可愛すぎるのが悪い」
天海くんは照れ隠しみたいに私の髪をちょっと引っ張って、今度は私の頬にそっと手を添えた。
親指で私の唇を軽くなぞる。その指先が、少しだけ震えてる気がした。
「次は……目、瞑って。今度は本当に、教えるから」
彼の声は、もういつものクラスの人気者のトーンじゃなかった。
一人の男の子の、熱くて強引で、でも切ない感じ。
私は、もう逃げるのをやめて、ゆっくり目を閉じた。
窓の外から聞こえる部活の声とかも、もう何も聞こえない。
残ったのは、バクバク言ってる私の心臓の音だけ。
「……いくよ?」
「……うん」
放課後の誰もいない教室で、私たちの影は静かに重なった。
End.

