『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

「はぁ、はぁ、はぁ……っ」

一ノ瀬くに連れてこられたのは、放課後の生徒が誰も立ち入らない、体育館の裏の自動販売機の陰だった。

夕日のオレンジ色の光が、斜めに私たちの影を地面に長く映し出している。一ノ瀬くんは私の手首をパッと離すと、そのまま自販機の壁にドン、と乱暴に手を突いた。

本日2回目の、至近距離の壁ドン。彼の整った顔が、目の前数センチのところにあって、荒い息遣いが直接私の肌にかかる。

「……お前、マジで何考えてんだよ」一ノ瀬くんの声は、怒りで低く震えていた。

「あの眼鏡先輩に行くな、って言っただろ。なんで俺の言うこと聞かねぇで、ホイホイついて行ってんだよ」

「だって……! 神楽坂先輩、もし来なかったら、 明日の朝の校内放送で私の『本当の性別』を学校中にアナウンスするって脅してきたんだもん……! そんなことされたら、私の男装生活が終わっちゃうし、 みんなに嘘ついてたのがバレて、居場所がなくなっちゃう……っ」

私はついに、メンズメイクの下の瞳から、ポロポロと涙をこぼしてしまった。

優しい王子様としてのポーカーフェイスなんて、もう維持できない。中身はただの、16歳の泣き虫な女の子の私。

学校中の女子にモテてハーレム状態の頂点にいるはずなのに、男の子たちの剥き出しのパワーと執着に振り回されて、怖くて、悔しくて、仕方がなかった。

私の涙を見た瞬間、一ノ瀬くんの目の色が、ハッとしたように優しく揺らいだ。

「……あ」一ノ瀬くんは、突いていた手をゆっくりと離すと、少しバツが悪そうに頭をかいた。

「……泣くなよ。 お前が泣くと、俺がただのいじめてる悪者みたいじゃん」

「だって、一ノ瀬くんが怒るから……っ。 私はただ、正体がバレたくなかっただけなのに……」

ぐすぐすと鼻をすする私。すると、一ノ瀬くんの大きな、温かい手が、そっと私の頬に触れた。親指の腹で、私の目元から溢れた涙を、メンズメイクが落ちるのも構わずに優しく拭い取ってくれる。

「……悪かったよ。怒鳴ってごめん」