「……お前、そういう台詞、外でさらっと言うんじゃねぇよ」
「だって、本当のことだもん」
悔しそうに頭をガシガシと掻きむしる一ノ瀬くんの姿が可笑しくて、私はクスクスと笑った。
すると、一ノ瀬くんは私の手を不意にガシッと力強く握りしめ、そのままグイッと自分の近くへと引き寄せた。
「キャッ……!?」
お弁当箱がひっくり返りそうになるのを間一髪で堪えながら、私は一ノ瀬くんの広い胸の中にすっぽりと収まっていた。中庭の桜の大きな幹の影。周囲の生徒たちからはちょうど見えない、二人だけの小さな死角。
「一ノ瀬くん……っ、誰かに見られちゃうよ……っ」
「見られたっていいだろ。俺はお前の『彼氏』なんだから」
一ノ瀬くんの低くて、だけど少しだけ意地悪に弾んだ声が、私の耳元を優しくくすぐる。彼の大きな瞳が、独占欲と、狂おしいほどの愛おしさを孕んで、私の唇を真っ直ぐに見つめていた。
「我慢すんの、もうやめた。……学校でずっとツムギ様って呼ばれてるお前を見て、俺がどれだけお前に触りたかったか、今からたっぷり教えてやるよ」
「――っ」
反論する隙なんて、最初から与えてくれなかった。
ゆっくりと重なっていく、一ノ瀬くんの綺麗な顔。
静まり返った木陰の中で、私の視界がゆっくりと狭まっていき、そっと目を瞑った瞬間――。
ちゅっ、と可愛いリップ音も鳴らして。
触れるだけの、だけど言葉にならないほど熱くて甘い、私たちの初めての本物のキスが、夕暮れのようなお昼休みの光の中に優しく溶けていった。
ハラハラして、生きた心地がしなかった男装の毎日。
だけど、あの完璧な崩壊を乗り越えたからこそ、私はこうして、世界で一番頼もしい彼氏の腕の中で、本当の幸せを手に入れることができたんだ。
「……紬。ずっと、俺の隣にいろよ」
「うん……! ずっと、ずっと隣にいるね、一ノ瀬くん」
Fin.
「だって、本当のことだもん」
悔しそうに頭をガシガシと掻きむしる一ノ瀬くんの姿が可笑しくて、私はクスクスと笑った。
すると、一ノ瀬くんは私の手を不意にガシッと力強く握りしめ、そのままグイッと自分の近くへと引き寄せた。
「キャッ……!?」
お弁当箱がひっくり返りそうになるのを間一髪で堪えながら、私は一ノ瀬くんの広い胸の中にすっぽりと収まっていた。中庭の桜の大きな幹の影。周囲の生徒たちからはちょうど見えない、二人だけの小さな死角。
「一ノ瀬くん……っ、誰かに見られちゃうよ……っ」
「見られたっていいだろ。俺はお前の『彼氏』なんだから」
一ノ瀬くんの低くて、だけど少しだけ意地悪に弾んだ声が、私の耳元を優しくくすぐる。彼の大きな瞳が、独占欲と、狂おしいほどの愛おしさを孕んで、私の唇を真っ直ぐに見つめていた。
「我慢すんの、もうやめた。……学校でずっとツムギ様って呼ばれてるお前を見て、俺がどれだけお前に触りたかったか、今からたっぷり教えてやるよ」
「――っ」
反論する隙なんて、最初から与えてくれなかった。
ゆっくりと重なっていく、一ノ瀬くんの綺麗な顔。
静まり返った木陰の中で、私の視界がゆっくりと狭まっていき、そっと目を瞑った瞬間――。
ちゅっ、と可愛いリップ音も鳴らして。
触れるだけの、だけど言葉にならないほど熱くて甘い、私たちの初めての本物のキスが、夕暮れのようなお昼休みの光の中に優しく溶けていった。
ハラハラして、生きた心地がしなかった男装の毎日。
だけど、あの完璧な崩壊を乗り越えたからこそ、私はこうして、世界で一番頼もしい彼氏の腕の中で、本当の幸せを手に入れることができたんだ。
「……紬。ずっと、俺の隣にいろよ」
「うん……! ずっと、ずっと隣にいるね、一ノ瀬くん」
Fin.


