「ほら、ツムギ。あっちの展示、クラスのやつだろ。行くぞ」
一ノ瀬くんは神楽坂先輩から借りた『機材管理補佐』の腕章をポケットに押し込むと、私の男装のブレザーの袖口を少しだけ強引にグイッと引っ張った。誰もいない体育館の裏通路から、にぎやかな喧騒が響く中庭へと一歩踏み出す。
太陽の眩しい光と、出店の香ばしい匂いが一気に鼻腔をくすぐった。
いつもなら「誰かに男装がバレるんじゃないか」「あのライバル女子がどこかで見てるんじゃないか」と怯えて、お祭りの空気なんて一ミリも楽しめなかったのに、今は胸のつかえが綺麗に取れて、世界の景色がいつもの何倍も色鮮やかに輝いて見える。
「わあ、すごい人……! 一ノ瀬くん、手を離さないでね」
「……バカ、学校で堂々と手なんか繋げるかよ。……でも、はぐれんじゃねぇぞ」
一ノ瀬くんはフイッと少し照れくさそうに顔を背けながらも、私の歩幅に合わせてわざと歩くスピードを緩めてくれた。ポケットに手を突っ込んだ彼の大きな背中が、私のすぐ隣にある。ただそれだけのことが、付き合いたての私にとっては涙が出そうなくらい嬉しかった。
「あ! ツムギ様――っ! 案内係のお仕事終わったんですか!?」
「一ノ瀬くんと一緒だ! 二人とも、うちのクラスの模擬店、寄っていってくださいよ!」
中庭を進むと、すぐにクラスの女子たちが私を見つけてキャーキャーと黄色い大歓声を上げた。いつものハーレム状態。だけど、私の『完璧なツムギ』としての王子様スマイルには、今までにないくらい心からの余裕が満ちていた。
「みんな、お疲れ様。案内係の仕事は一段落したから、今日はい一ノ瀬くんとゆっくりコンクールを楽しもうと思ってね」
さらりといつものキザなトーンで返しながら、私は女子たちの隙間から、一ノ瀬くんとこっそり視線を交わした。一ノ瀬くんは女子たちに囲まれる私を見て、いつものように不機嫌そうに「チッ」と舌打ちをしてみせる。
周りから見れば、ただのいつもの日常、ただの仲の良い男友達。
だけど、私たちの胸の中には、昨日恋人同士になったばかりの甘い秘密が、トクトクと静かに脈打っていたんだ。
そして、私には一つの覚悟が胸の中にあった。
一ノ瀬くんは神楽坂先輩から借りた『機材管理補佐』の腕章をポケットに押し込むと、私の男装のブレザーの袖口を少しだけ強引にグイッと引っ張った。誰もいない体育館の裏通路から、にぎやかな喧騒が響く中庭へと一歩踏み出す。
太陽の眩しい光と、出店の香ばしい匂いが一気に鼻腔をくすぐった。
いつもなら「誰かに男装がバレるんじゃないか」「あのライバル女子がどこかで見てるんじゃないか」と怯えて、お祭りの空気なんて一ミリも楽しめなかったのに、今は胸のつかえが綺麗に取れて、世界の景色がいつもの何倍も色鮮やかに輝いて見える。
「わあ、すごい人……! 一ノ瀬くん、手を離さないでね」
「……バカ、学校で堂々と手なんか繋げるかよ。……でも、はぐれんじゃねぇぞ」
一ノ瀬くんはフイッと少し照れくさそうに顔を背けながらも、私の歩幅に合わせてわざと歩くスピードを緩めてくれた。ポケットに手を突っ込んだ彼の大きな背中が、私のすぐ隣にある。ただそれだけのことが、付き合いたての私にとっては涙が出そうなくらい嬉しかった。
「あ! ツムギ様――っ! 案内係のお仕事終わったんですか!?」
「一ノ瀬くんと一緒だ! 二人とも、うちのクラスの模擬店、寄っていってくださいよ!」
中庭を進むと、すぐにクラスの女子たちが私を見つけてキャーキャーと黄色い大歓声を上げた。いつものハーレム状態。だけど、私の『完璧なツムギ』としての王子様スマイルには、今までにないくらい心からの余裕が満ちていた。
「みんな、お疲れ様。案内係の仕事は一段落したから、今日はい一ノ瀬くんとゆっくりコンクールを楽しもうと思ってね」
さらりといつものキザなトーンで返しながら、私は女子たちの隙間から、一ノ瀬くんとこっそり視線を交わした。一ノ瀬くんは女子たちに囲まれる私を見て、いつものように不機嫌そうに「チッ」と舌打ちをしてみせる。
周りから見れば、ただのいつもの日常、ただの仲の良い男友達。
だけど、私たちの胸の中には、昨日恋人同士になったばかりの甘い秘密が、トクトクと静かに脈打っていたんだ。
そして、私には一つの覚悟が胸の中にあった。


