『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

翌日からも、あの不気味なほどの「静けさ」は、まるで嘘のように学校生活を包み込み続けていた。

いつもなら、教室のドアを開けた瞬間にどこからか突き刺さっていた、あのねっとりとしたライバルの視線。

それが、今朝は全く感じられない。

当の本人はと言えば、クラスの他の女の子たちと楽しそうにスマホを眺めて談笑していて、私の方には目もくれないのだ。


本当に……律先輩が裏から手を回してくれたのかな……


生徒会長という絶対的な権力を持つ律先輩が、彼女に何かしらの警告を出してくれたのかもしれない。

そう思うとホッとする半面、律先輩に「秘密の借り」を作ってしまったという事実が、私の胸の奥の重荷にもなっていた。


「おはよ、ツムギくん。今日もかっこいいね!」

「ツムギ様、これ、お昼休みに一緒に食べませんか?」

朝のホームルーム前、いつものように私の席の周りにはたくさんの女子生徒が集まり、あっという間に華やかなハーレム状態が出来上がる。

私はいつもの『完璧なツムギ』の仮面をしっかりと貼り付け、王子様スマイルで彼女たちの相手をこなしていく。

「みんな、おはよう。朝からそんなに可愛い笑顔を見せてくれたら、今日の授業も頑張れそうだよ」

さらりとそんなキザな台詞を口にしながら、私の視線は、どうしても斜め後ろの席へと向かってしまう。

そこには、頬杖をついたまま、つまらなそうに教科書をパラパラと熱心にめくっている一ノ瀬くんの姿があった。

いつもなら、女子に囲まれる私を見て「チッ」と露骨に舌打ちをしたり、睨みつけてきたりしたはずの彼。だけど今日の一ノ瀬くんは、静かに窓の外の景色を眺めているだけだった。

だけど、目が合うか合わないかのギリギリの瞬間。

一ノ瀬くんが、女子たちの隙間から、私にだけ見えるように小さく口元を動かした。


『――無理、すんなよ』
 
声には出さない、優しいその唇の動き。


それだけで、周りの女子たちの高い歓声が全部遠くのノイズに変わっていく。学校の中では、ただの仲の良い男友達。だけど、私たちは誰にも言えない秘密の関係。


そのもどかしくて、心臓が溶けてしまいそうなほど甘い秘密のアイコンタクトが、冷たい風の吹く教室の中で、私に何よりの安心感を補給してくれていた。