『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

「俺を頼れよ、もっと」

という、一ノ瀬くんのぶっきらぼうな言葉を胸に秘めたまま、私たちは静まり返った夕暮れの通学路を、並んで歩いていた。

いつもの賑やかな帰り道とは違って、周りにはもう他の生徒の姿もない。

オレンジ色の夕闇が街を優しく包み込み、アスファルトの上に伸びた二人の影が、歩くたびに時折近づいては重なりそうになる。

……すごく、静かだな

一ノ瀬くんがライバルをきつく睨みつけてくれたこと、そして、律先輩が「裏から少しだけ圧力をかけておく」と言ってくれたこと。

その2つの見えない盾のおかげだろうか、あれほど毎日私を追い詰めていた『奇妙な視線』が、嘘のようにピタッと消え去っていた。


それは、本当に久しぶりに手に入れた、穏やかな日常。

だけど、これがいつ壊れてもおかしくない『嵐の前の静けさ』だということを、私の本能がどこかで冷たく察している。

だからこそ、今こうして隣を歩いてくれている一ノ瀬くんの存在が、たまらなく愛おしくて、同時に少しだけ切なかった。


「……おい、ツムギ。何ボーッとしてんだよ」 

ふいに、一ノ瀬くんが歩幅を緩めて私の顔を覗き込んできた。


「あ、ううん、なんでもないよ! ちょっと、夕日が綺麗だなって思って」

いつもの王子様スマイルを浮かべようとしたけれど、一ノ瀬くんはフンと鼻を鳴らすと、周りに誰もいないことをもう一度確認してから、ポケットから出した大きな手で、私の男装のブレザーの袖口をグイッと軽く引っ張った。

直接手を繋ぐわけじゃない。

だけど、袖越しに伝ってくる彼の指先の力強さと熱さに、私の心臓がドクンと甘い音を立てる。


「……お前、また一人で変なこと考えてんだろ。……何があっても、俺がお前の隣にいるっつーの」

「――一ノ瀬くん」

「……耳まで赤くなってんの、突っ込むなよ。ほら、早く歩くぞ」

少しだけ早足になる一ノ瀬くんの耳の端が、夕日の赤さのせいだけではなく、ほんのりと赤くなっているのを愛おしく見つめながら、私は彼の歩幅に合わせて一歩を踏み出した。