『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

だけど――私の胸の中には、さっきまで私の前に立って命がけで守ろうとしてくれた、一ノ瀬くんのあの大きな背中が残っていた。

隠しちゃダメだ。一ノ瀬くんのあの真っ直ぐな気持ちに、私もちゃんと応えたい……っ

私はポケットの中で震える拳をぎゅっと握りしめ、逃げそうになる足を堪えて、律先輩の氷のような瞳を真っ直ぐに見つめ返した。


「……違います、律先輩」

「何が?」

私の予想外の強い拒絶に、律先輩の綺麗な眉がピクリと跳ね上がる。


「私は誰の所有物でもありません。それに……私、一ノ瀬くんと付き合いました」

「――」

はっきりと告げたその瞬間、静まり返った廊下の空気が、より一層冷たく張り詰めたのが分かった。


「私たちは、お互いに大切な恋人同士です。だから……律先輩にそんな風に言われる筋合いはありません。私の正体を知っているからって、一ノ瀬くんとの関係まで邪魔しないでください……っ!」

カサカサに乾いた喉を鳴らしながら、私は一気に言い切った。

男装のイケメン『ツムギ』としてではなく、一人の恋する女の子『紬』としての、私の目一杯の抵抗だった。

私の言葉を聞いた律先輩は、しばらくの間、彫刻のように表情を無くして私を見つめていた。

だけど、やがてフッと低く、どこか自嘲気味な笑みを漏らし、眼鏡のブリッジを指先でゆっくりと押し上げた。

「……なるほど。あの一ノ瀬と、ね」

律先輩の声から、さっきまでの楽しむような余裕が消え、代わりに底知れない冷徹さと、微かな執着の色がじわりと滲み出てくる。


「随分と大胆な告白だな。けど、紬。俺がその気になれば、お前たちのその『甘い関係』ごと、一瞬で奈落の底へ突き落とせるっていうことを……忘れるなよ」


私を試すような、だけど決して諦めてはいない律先輩の言葉に、思わず息を呑んだ。