『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

「ううん、ありがとう、一ノ瀬くん……っ」

「おう。これからは一人で抱え込むんじゃねぇぞ。……じゃ、帰るか」


そう言って、一ノ瀬くんが私の手を引いて歩き出そうとした、その時だった。


「随分と不穏な密会をしていたな、二人とも」


冷ややかな足音と共に、廊下の向こうから現れたのは、生徒会長の律先輩だった。

静かに眼鏡のブリッジを押し上げる律先輩の瞳には、私が男ではなく『女の子』だとすでに知っているからこ所の、冷酷なまでの余裕が滲んでいる。

「律先輩……っ」

「一ノ瀬、悪いけど、次の校内行事の件でツムギにちょっと手伝ってほしいことがある。……お前は部外者だから、ここで大人しく引きさがれ」

「あぁん? 誰が引き下がるかよ。こいつは俺と――」

一ノ瀬くんが激しく牙を剥こうとしたけれど、私は慌てて彼の体操着の袖をギュッと引っ張った。律先輩の眼鏡の奥の瞳が、すべてを見透かしたように怪しく光っているのを見たからだ。


一ノ瀬くん、ダメ……! 律先輩をこれ以上怒らせたら、本当に大変なことになる……


ここで問題を起こすわけにはいかない。私の必死の視線に気づいた一ノ瀬くんは、悔しそうに歯を食いしばり、私の頭を乱暴にポンと叩いた。

「……チッ。ツムギ、何かあったらすぐ俺を呼べよ。……いいな?」

「うん、ありがとう、一ノ瀬くん」

一ノ瀬くんが渋々といった足取りで去っていき、廊下には私と律先輩の二人だけが残された。

静まり返った空間で、律先輩がゆっくりと私との距離を詰めてくる。私の背中に、冷たい汗が流れた。

「さ……。ようやく邪魔者が消えたな、紬」

学校のみんなが呼ぶイケメンの『ツムギ』ではなく、私の本当の性別を指す『紬』という響き。

その大人の余裕を孕んだ低い声に、私の心臓がドクリと冷たい音を立てる。


「律先輩……、私に用事って、一体……」

「そんな怯えた顔をしなくてもいい。俺があんたの秘密を、全校生徒に流すような真似をすると思う? ……だけど、さっきの一ノ瀬との空気……少し面白くない。あんたを特別に囲ってあげる権利は、俺にもあるはずだ。……違う?」


すべてを見透かした上で、私を自分の手中に収めようとする律先輩の冷徹な攻め。

恋人になったばかりの一ノ瀬くんとの幸せのすぐ裏で、私の心臓は、またしても息ができないほどのハラハラ感に支配されようとしていた――。