『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

あの渡り廊下での奇妙な視線以来、その「影」はより露骨に、だけど決して正体を見せない絶妙な距離感で、私たちの日常に這り込んできた。

例えば、朝の教室。

私の机の引き出しの中に、差出人のない一枚の小さなメモが入っていたりする。

中を開けると、ただ一言、綺麗な文字でこう書かれているのだ。


『いつまで王子様のフリが続けられるか、楽しみにしてるね』


「――っ」

心臓が冷たく凍りつく。

慌ててメモをポケットに押し込み、教室を見渡すけれど、クラスの女子たちはいつも通り「ツムギ様、おはよう!」と笑顔で手を振ってくれるだけだ。

だけど、その視線のどこかに、あの意地悪なライバルが混ざっている。そう思うだけで、背筋に嫌な汗が伝った。


「……おい、ツムギ。どうした」

隣の席の一ノ瀬くんが、私の強張った表情に気づいて低く声をかけてきた。

周りの目を気にしながら、彼は自分の机に頬杖をつき、視線だけを私に向けている。


「ううん、なんでもないよ」

いつもの王子様スマイルを作って誤魔化そうとしたけれど、一ノ瀬くんの鋭い瞳は騙せなかった。

彼はフイッと視線を私のポケットの方へと落とし、何かを察したように、格好いい眉をグッと不機嫌そうにひそめた。

授業中、一ノ瀬くんはいつも以上に私の周囲に視線を走らせていた。

先生が黒板に向かっている隙に、彼は小さく折りたたんだルーズリーフの切れ端を、私の机へと滑らせてくる。


『放課後、一緒に帰るぞ。一人で行動すんな』


乱暴に書かれたその文字に、張り詰めていた私の心がすっと軽くなる。

付き合いたての恋人としての特権。

今はそれ以上に、彼が私を守ろうと、その大きな身体で「影」を遮ろうとしてくれていることが、何よりも心強かった。

だけど、放課後の下校時刻。

一ノ瀬くんと並んで校門を出ようとした私たちの背後から、コツコツと小気味いいローファーの音が近づいてきた。

「あら、ツムギくん。一ノ瀬くんと本当に仲良しなのね」

振り返ると、そこにはいつもの冷ややかな笑みを浮かべた、あのクラスの女子ライバルが立っていた。

彼女は私たちの前に回り込むと、手にしたスマートフォンを、わざとらしく私たちの目の前でパチリとポケットに収めて見せた。


「スポーツ祭の時も、二人の『熱い友情』、特等席で見せてもらったわ。……ねぇ、ツムギくん。その友情、いつまで保つのかしらね?」

一ノ瀬くんの肩が、ピキリと一瞬で怒りに強張る。

彼は私を自分の背後へと完全に隠すように一歩前に出ると、獣のような鋭い眼差しで、彼女を低く睨みつけた――。