一ノ瀬くんと秘密の恋人同士になってから、学校生活は今まで以上にドキドキの連続になった。
教室で隣の席に座っている時。ノートを貸し借りする一瞬に指先が触れ合うだけで、心臓が爆発しそうになる。
周りから見れば、ただの仲の良い男友達の距離感。
だけど、二人だけの秘密を共有しているという事実が、私の毎日の景色を甘く塗り替えていた。
だけど――その幸せな空気の中に、少しずつ奇妙な違和感が混ざり始める。
「なぁ、ツムギ。今日の放課後さ……」
「うん? どうしたの一ノ瀬くん」
お昼休みの購買の帰り道、人がまばらな渡り廊下を並んで歩いていた時のことだった。
ふいに、背筋がゾクッとするような、冷たい『視線』が肌を刺した。
ただのファンの女の子たちの熱視線とは違う。
もっとじっとりと湿り気を帯びた、こちらの出方を値踏みするような、悪意の混じった視線。
「……っ」
私が無意識に立ち止まり、振り返ろうとした瞬間、一ノ瀬くんが私の前に一歩踏み出すようにして視線を遮った。
彼の鋭い瞳が、誰もいないはずの校舎の角へと向けられる。
一ノ瀬くんの大きな肩がピキリと張り詰め、私を背中に隠すようにして、その角の奥をじっと睨みつけていた。
一ノ瀬くんも……気づいてるんだ。
「……チッ、気のせいか?」
一ノ瀬くんは低く舌を打ち、頭をガシガシと掻きながら視線を戻した。
だけど、その瞳の奥には明らかな警戒の色が浮かんでいる。
「一ノ瀬くん、いまの……」
「……気にするな。なんでもねぇよ」
彼は私の頭をぶっきらぼうにポンと叩いて、安心させるように小さく笑った。
だけど、繋げない代わりに私の体操着の袖をキュッと一瞬だけ強く握った彼の指先は、間違いなく何かを警戒していた。
あの放課後、私の男装の証拠写真を握った同じクラスのライバル。
彼女がどこかで、私たちをじっと観察している。
一ノ瀬くんと付き合い始めて、二人の距離が近づけば近づくほど、その視線の主は嬉しそうに暗闇で爪を研いでいるようだった。
「ほら、行くぞ。予鈴鳴るぞ」
「あ、うん……!」
いつもの王子様スマイルを作って一ノ瀬くんの後を追いかけながら、私は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
教室で隣の席に座っている時。ノートを貸し借りする一瞬に指先が触れ合うだけで、心臓が爆発しそうになる。
周りから見れば、ただの仲の良い男友達の距離感。
だけど、二人だけの秘密を共有しているという事実が、私の毎日の景色を甘く塗り替えていた。
だけど――その幸せな空気の中に、少しずつ奇妙な違和感が混ざり始める。
「なぁ、ツムギ。今日の放課後さ……」
「うん? どうしたの一ノ瀬くん」
お昼休みの購買の帰り道、人がまばらな渡り廊下を並んで歩いていた時のことだった。
ふいに、背筋がゾクッとするような、冷たい『視線』が肌を刺した。
ただのファンの女の子たちの熱視線とは違う。
もっとじっとりと湿り気を帯びた、こちらの出方を値踏みするような、悪意の混じった視線。
「……っ」
私が無意識に立ち止まり、振り返ろうとした瞬間、一ノ瀬くんが私の前に一歩踏み出すようにして視線を遮った。
彼の鋭い瞳が、誰もいないはずの校舎の角へと向けられる。
一ノ瀬くんの大きな肩がピキリと張り詰め、私を背中に隠すようにして、その角の奥をじっと睨みつけていた。
一ノ瀬くんも……気づいてるんだ。
「……チッ、気のせいか?」
一ノ瀬くんは低く舌を打ち、頭をガシガシと掻きながら視線を戻した。
だけど、その瞳の奥には明らかな警戒の色が浮かんでいる。
「一ノ瀬くん、いまの……」
「……気にするな。なんでもねぇよ」
彼は私の頭をぶっきらぼうにポンと叩いて、安心させるように小さく笑った。
だけど、繋げない代わりに私の体操着の袖をキュッと一瞬だけ強く握った彼の指先は、間違いなく何かを警戒していた。
あの放課後、私の男装の証拠写真を握った同じクラスのライバル。
彼女がどこかで、私たちをじっと観察している。
一ノ瀬くんと付き合い始めて、二人の距離が近づけば近づくほど、その視線の主は嬉しそうに暗闇で爪を研いでいるようだった。
「ほら、行くぞ。予鈴鳴るぞ」
「あ、うん……!」
いつもの王子様スマイルを作って一ノ瀬くんの後を追いかけながら、私は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。


