悔しそうに耳元で呟く一ノ瀬くんの声が、なんだかやけに愛おしくて、私は彼の胸に顔を埋めたままクスクスと小さく笑ってしまった。
「な、何笑ってんだよ」
「ううん、だって一ノ瀬くんがそんなに悔しがるなんて思わなかったから。……格好悪くなんてないよ。すっごく、嬉しい」
そう言って、私は勇気を出して、彼の背中にそっと両手を回した。
ジャケット越しではない、体操着を隔てた彼の背中は広くて、たくましくて、やっぱり本物の男の子なんだって、今更ながら心臓がうるさく警報を鳴らし始める。
私が抱きしめ返すと、一ノ瀬くんの身体が一瞬だけ、硬直したようにビクリと跳ね上がった。
だけどすぐに、諦めたようにふっと息を吐き出して、さらに強く私を腕の中に閉じ込める。
お互いの激しい鼓動が、重なり合うようにして響いていた。
昼間のあの冷たいすれ違いも、いつ正体がバレるか分からない毎日の恐怖も、彼の腕の中にいる今だけは、遠い世界の出来事みたいにすべて消えていく。
「一ノ瀬くん……足、痛くない?」
しばらくして、ふと彼の怪我を思い出して腕の中で呟くと、一ノ瀬くんは私の頭の上に顎を乗せたまま、少し呆れたような声を出した。
「……お前、こんな時にまで人の心配すんな。……つーか、痛ぇのなんか、お前に抱きつかれた時点で全部吹き飛んだわ」
「な、何言ってるの……!」
恥ずかしすぎるセリフに、今度は私の顔が爆発しそうになる。
ゆっくりと体を離すと、一ノ瀬くんはまだ耳の端をほんのりと赤くしたまま、だけどいつものぶっきらぼうな、だけど最高に優しい瞳で私のことを見つめていた。
夕闇が本格的に降りてきて、校庭の照明が遠くでぽつぽつと灯り始めている。
「……紬」
「うん?」
「これからは、一人で全部抱え込もうとすんな。あの放課後のことも、これからのことも……俺が絶対にお前を守ってやるから」
彼の力強い言葉に、胸の奥がじーんと熱くなる。
ようやく手に入れた、一ノ瀬くんとの幸せな時間。だけど、この時の私はまだ知らなかった。
この最高に甘い放課後のすぐ裏で、あのライバルの女の子が、私たちの破滅を決定づける『最悪の計画』を、暗闇の中で着々と進めていたことを――。
「な、何笑ってんだよ」
「ううん、だって一ノ瀬くんがそんなに悔しがるなんて思わなかったから。……格好悪くなんてないよ。すっごく、嬉しい」
そう言って、私は勇気を出して、彼の背中にそっと両手を回した。
ジャケット越しではない、体操着を隔てた彼の背中は広くて、たくましくて、やっぱり本物の男の子なんだって、今更ながら心臓がうるさく警報を鳴らし始める。
私が抱きしめ返すと、一ノ瀬くんの身体が一瞬だけ、硬直したようにビクリと跳ね上がった。
だけどすぐに、諦めたようにふっと息を吐き出して、さらに強く私を腕の中に閉じ込める。
お互いの激しい鼓動が、重なり合うようにして響いていた。
昼間のあの冷たいすれ違いも、いつ正体がバレるか分からない毎日の恐怖も、彼の腕の中にいる今だけは、遠い世界の出来事みたいにすべて消えていく。
「一ノ瀬くん……足、痛くない?」
しばらくして、ふと彼の怪我を思い出して腕の中で呟くと、一ノ瀬くんは私の頭の上に顎を乗せたまま、少し呆れたような声を出した。
「……お前、こんな時にまで人の心配すんな。……つーか、痛ぇのなんか、お前に抱きつかれた時点で全部吹き飛んだわ」
「な、何言ってるの……!」
恥ずかしすぎるセリフに、今度は私の顔が爆発しそうになる。
ゆっくりと体を離すと、一ノ瀬くんはまだ耳の端をほんのりと赤くしたまま、だけどいつものぶっきらぼうな、だけど最高に優しい瞳で私のことを見つめていた。
夕闇が本格的に降りてきて、校庭の照明が遠くでぽつぽつと灯り始めている。
「……紬」
「うん?」
「これからは、一人で全部抱え込もうとすんな。あの放課後のことも、これからのことも……俺が絶対にお前を守ってやるから」
彼の力強い言葉に、胸の奥がじーんと熱くなる。
ようやく手に入れた、一ノ瀬くんとの幸せな時間。だけど、この時の私はまだ知らなかった。
この最高に甘い放課後のすぐ裏で、あのライバルの女の子が、私たちの破滅を決定づける『最悪の計画』を、暗闇の中で着々と進めていたことを――。


