『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

オレンジ色の夕闇が静かに校舎を包み込む中、私は息を切らせて約束の場所にたどり着いた。


「一ノ瀬くん……っ!」

放課後の校舎の裏手。冷たいコンクリートの段差に腰を掛け、右の足首をさすりながら一人で待っていた一ノ瀬くんの姿を見つけて、私はカバンを放り出すようにして駆け寄った。


「……ツムギ。そんな慌ててどうした?」

「慌てるよ! サッカーの時も凄かったけど、最後の騎馬戦のあと、足を痛めてたでしょ? 保健室には行ったの? 大丈夫じゃないじゃ……っ」

彼の前にしゃがみ込み、私は覗き込むようにして一気に捲し立てた。

男装の王子様としての余裕なんて、今の私には一ミリも残っていない。

ただただ、目の前で痛そうに顔をしかめている一ノ瀬くんが心配だった。


「……あー、いや。大したことねぇよ。保健室で冷やしてもらったし、ただの軽い捻挫だってさ」


私のあまりの必死さに圧倒されたのか、一ノ瀬くんは少し気まずそうに視線を逸らし、頭をごしごしとかいた。

だけど、私が「本当に? 見せて?」と彼の足元を心配そうに見つめ続けると、彼はふっと小さく吹き出した。


「ぷっ……。お前さ、学校じゃあんなにカッコいい『ツムギ様』のくせに、俺の前だとすぐただのツムギになるよな」

「だって……!」

「ありがとな、心配してくれて。お前がグラウンドの端っこから、今にも泣きそうな顔して俺のこと見てんの、ちゃんと気づいてたよ」

そう言って、一ノ瀬くんは大きな手を私の頭の上にぽんと乗せた。

ウィッグ越しだけど、彼の大きな手のひらの温もりが、じんわりと頭から胸の奥へと染み渡っていく。昼間のあの冷たかったすれ違いが、この温もりだけで完全に溶けて消えていくのが分かった。


「……俺の方こそ、悪かった。お前が一人で全部抱え込んで、ギリギリで戦ってるの分かってたのに、意地はって無視したりして」


夕暮れの光を浴びた一ノ瀬くんの瞳が、真っ直ぐに私を捉える。

怪我の心配が落ち着いた途端、静まり返った校舎の裏で、二人の間の空気が一気に甘く、そして切なく張り詰めていくのを感じた――。