『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

私の震える声を受け止めるように、自動販売機の裏の狭い空間に、静かな沈黙が流れた。


一ノ瀬くんは私の指先が掴む自分の袖を見つめたまま、ハッとしたように目を見開いている。

彼の瞳からトゲトゲしい冷たさが消え、代わりに不器用な戸惑いと、切ないほどの愛おしさがじわりと滲み出ていくのが分かった。


「お前……、そんなこと考えて……」

一ノ瀬くんがゆっくりと大きな手を伸ばし、私の肩に触れようとした、その瞬間だった。


『――ピンポンパンポン。生徒の皆さんに連絡します。間もなく午後のプログラムを開始します。各クラスの実行委員は――』


無機質な校内放送のアナウンスが、大音量で私たちの頭上に降り注いだ。

同時に、遠くのグラウンドから「午後の部始まるぞー!」という男子たちの騒がしい声が聞こえてくる。


「あ……」

伸ばされかけた一ノ瀬くんの手が、ピクリと空中で止まる。

差し込んでいた夕暮れ前の一瞬の静寂は消え去り、私たちは強制的に『学校行事』という現実の舞台へと引き戻されてしまった。


「……チッ、タイミングの悪い」

一ノ瀬くんは悔しそうに眉をひそめ、頭をガシガシとかきむしった。

だけど、その瞳はもう私を拒絶してはいなかった。彼はふいっと顔を背けながらも、耳の端を真っ赤にして、ボソリと呟いた。


「……午後の競技、ちゃんと見てろよ。終わったら、校舎の裏で待ってろ」

「――うんっ!」

溢れそうだった涙をギュッと引っ込めて、私は思いきり頷いた。


お互いの誤解は、まだ完全には解けきっていない。

だけど、彼のその言葉だけで、午前中のあの冷たいすれ違いが嘘のように、私の胸は温かい光で満たされていく。


「ツムギくーん! 午後の部始まるよー!」

遠くからファンの女の子たちが私を探す声が聞こえる。

「今行くよ!」

私はいつもの完璧な『ツムギ』の笑顔を仮面のように貼り直し、一ノ瀬くんに小さく手を振って応援席へと駆け出した。

胸の奥にある爆弾(ライバルの盗撮写真)の恐怖は消えていない。だけど、もう怖くなかった。


スポーツ祭の午後の部。クラスの、そして何より一ノ瀬くんの有姿をこの目に焼き付けるために、私の真剣な闘いが再び幕を開けた――。