『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

「――位置について、よーい……」

パァン、と乾いたピストルの音がグラウンドに鳴り響いた。

その瞬間、私は抱えていたすべての不安や葛藤を頭から力ずくで追い出した。

今は秘密のことも、一ノ瀬くんとのすれ違いも関係ない。クラスのために、男装のイケメン『ツムギ』として、ただ目の前の勝負に全力を尽くすだけだ。

私が任されたのは、クラス対抗リレーの第3走者。

前を走る男子が、必死の形相でバトンを繋ごうとこちらへ向かって走ってくる。


「ツムギ、頼んだぞ――!」

「任せて……っ!」

ガシッと手のひらにバトンを受け取った瞬間、私は地面を強く蹴り出した。

風を切る音が耳元でゴウゴウと鳴り響く。

男の子たちの歩幅に負けないよう、毎日ウィッグの下で汗を流しながら重ねてきた自主練の成果を、今ここで全部ぶつけるんだ。


前を走る他クラスの男子の背中が、一歩、また一歩と近づいてくる。

真剣そのものの目で前だけを見据え、髪を振り乱してトラックを激走する。


「うおおお! ツムギ、速ぇええ!?」

「あいつ、マジで本気じゃん……っ!

男子たちの驚愕の声が上がる。

いつもは「王子様」として一歩引いて微笑んでいる私が、泥臭く、必死に、だけど誰よりも真っ直ぐに走っているその姿は、グラウンド中の視線を完全に釘付けにしていた。


「ツムギ様――っ!! 頑張って――ッ!!」

割れんばかりの悲鳴のような大歓声が背中に突き刺さる。

だけど今の私には、その声すら遠くのノイズのようだった。

ただ、目の前の走者を抜き去ること。クラスに勝利を届けること。それだけを考えて、歯を食いしばって四肢を動かした。

コーナーを曲がり、最後の直線。

私は限界まで歩幅を広げ、ついに半歩、前を走る男子を追い抜いた。

「――よしっ!」

トップでアンカーへとバトンを繋ぎ、スピードを落としながら私は大きく肩で息をした。

額から流れる汗が目に入って染みる。制服とは違う、体操着の軽さが心地いい。

パチパチパチ、とグラウンド中から地鳴りのような拍手が湧き起こる中、私は前髪を無造作に腕で拭った。


その瞬間、私の目は無意識に、クラスの応援席へと向いていた。

そこには、他の男子たちと一緒になって、立ち上がってこちらを見つめている一ノ瀬くんの姿があった。

彼は、信じられないものを見たというように目を見開き、驚きと、そしてどこか眩しそうな眼差しで、私のことだけをじっと見つめていたんだ――。