次の授業が始まるチャイムが鳴り、女子たちは名残惜しそうにそれぞれの席へと戻っていった。
私はようやく自分の椅子に腰を下ろし、小さく息を漏らす。
机の上に教科書を広げながら、隣の席の一ノ瀬くんを盗み見ると、彼は相変わらず仏頂面のまま前を向いていた。
「……一ノ瀬くん」
先生が黒板に向いた隙を見計らい、私は彼にだけ聞こえるような微かな声で呼びかけた。
「一ノ瀬くんは目線だけをこちらに寄せて、低く応じる。
「さっきは、その……本当に助かった。ありがとう」
男装の声を保ちつつも、精一杯の感謝を込めて伝えると、一ノ瀬くんの視線がピタリと私の唇で止まった。
「……お前、あいつに名前呼ばれてただろ」
「え……?」
予想外の指摘に、私の心臓が冷やっと凍りつく。
「廊下の角まで行った時、聞こえたんだよ。あいつがお前の本当の名前、呼んでんのが」
一ノ瀬くんの切れ長の瞳が、じっと私を射抜く。そこに宿る熱は、いつもの意地悪なものではなく、どこか切なくて、酷く独占欲に満ちたものだった。
「俺だけの秘密だと思ってたのに。……あいつにまで教えたのかよ」
責めるような、けれどどこか傷ついたような彼の声に、胸の奥がキュッと締め付けられる。
「違う、教えてない! 律先輩が勝手に見破っただけで──」
「静かにしろ、そこ。授業中だぞ」
先生の鋭い声が響き、私達の会話は強制的に打ち切られた。
前を向いた一ノ瀬くんの横顔は、これまでになく頑なで、私の心にじわりとした不安が広がっていくのを止めることができなかった。
私はようやく自分の椅子に腰を下ろし、小さく息を漏らす。
机の上に教科書を広げながら、隣の席の一ノ瀬くんを盗み見ると、彼は相変わらず仏頂面のまま前を向いていた。
「……一ノ瀬くん」
先生が黒板に向いた隙を見計らい、私は彼にだけ聞こえるような微かな声で呼びかけた。
「一ノ瀬くんは目線だけをこちらに寄せて、低く応じる。
「さっきは、その……本当に助かった。ありがとう」
男装の声を保ちつつも、精一杯の感謝を込めて伝えると、一ノ瀬くんの視線がピタリと私の唇で止まった。
「……お前、あいつに名前呼ばれてただろ」
「え……?」
予想外の指摘に、私の心臓が冷やっと凍りつく。
「廊下の角まで行った時、聞こえたんだよ。あいつがお前の本当の名前、呼んでんのが」
一ノ瀬くんの切れ長の瞳が、じっと私を射抜く。そこに宿る熱は、いつもの意地悪なものではなく、どこか切なくて、酷く独占欲に満ちたものだった。
「俺だけの秘密だと思ってたのに。……あいつにまで教えたのかよ」
責めるような、けれどどこか傷ついたような彼の声に、胸の奥がキュッと締め付けられる。
「違う、教えてない! 律先輩が勝手に見破っただけで──」
「静かにしろ、そこ。授業中だぞ」
先生の鋭い声が響き、私達の会話は強制的に打ち切られた。
前を向いた一ノ瀬くんの横顔は、これまでになく頑なで、私の心にじわりとした不安が広がっていくのを止めることができなかった。

