「──おい一ノ瀬、職員室でお前を探してたぞ。すぐ行けってさ」
律先輩がポケットから手を抜き、顎で校舎の奥をしゃくった。
一ノ瀬くんはちっと盛大に舌打ちをすると、ひどく渋るような視線を私へと向けた。
「……ツムギ、ここで待ってろ。すぐ戻るから」
それだけ言い残し、彼は足早に廊下を去っていった。角を曲がるその瞬間まで、私を心配そうに振り返っていた彼の気配が完全に消える。
途端に、静まり返った渡り廊下の空気が、ずっしりと重く私の肩にのしかかってきた。
「さて、と。やっと邪魔者が消えたな」
律先輩がニヤリと不敵に笑い、私との距離をさらに一歩詰めてくる。ふわりと漂う、彼特有の整った香りに目眩がしそうだった。背後には中庭の壁があり、もう逃げ場なんてどこにもない。
「それで? お前、その男のフリ……いつまで続けるつもり?」
低く、けれど有無を言わせない響きを持った声が、私の鼓膜をダイレクトに揺らす。
「それは……っ」
喉の奥がキュッと縮こまり、いつもの低い声が上手く作れない。
私のウィッグの境界線に指をかけ、声の響きだけで「女」だと見破ったこの先輩は、最初から私のすべてを見透かしている。
「女子にモテまくって、うちの役員まで狂わせてさ。面白いお遊びだけど、これ以上は色々と危ねえんだよ」
律先輩の長い指先が、すっと私のブレザーの襟元へと伸びてきた。荒々しい男子の体温が近づくたびに、心臓が痛いほど高鳴り、全身の血の気が引いていく。
「お前が何のためにこんな面倒な真似をしてるのか、俺に全部話せよ。……な、紬?」
耳元で、彼に本当の名前を囁かれたその瞬間、私の頭の中は真っ白に染まった。楽しいはずだった私のハーレム生活の裏側で、この完璧な肉食系の先輩に、私は完全に魂まで掴まれてしまっていた。
律先輩がポケットから手を抜き、顎で校舎の奥をしゃくった。
一ノ瀬くんはちっと盛大に舌打ちをすると、ひどく渋るような視線を私へと向けた。
「……ツムギ、ここで待ってろ。すぐ戻るから」
それだけ言い残し、彼は足早に廊下を去っていった。角を曲がるその瞬間まで、私を心配そうに振り返っていた彼の気配が完全に消える。
途端に、静まり返った渡り廊下の空気が、ずっしりと重く私の肩にのしかかってきた。
「さて、と。やっと邪魔者が消えたな」
律先輩がニヤリと不敵に笑い、私との距離をさらに一歩詰めてくる。ふわりと漂う、彼特有の整った香りに目眩がしそうだった。背後には中庭の壁があり、もう逃げ場なんてどこにもない。
「それで? お前、その男のフリ……いつまで続けるつもり?」
低く、けれど有無を言わせない響きを持った声が、私の鼓膜をダイレクトに揺らす。
「それは……っ」
喉の奥がキュッと縮こまり、いつもの低い声が上手く作れない。
私のウィッグの境界線に指をかけ、声の響きだけで「女」だと見破ったこの先輩は、最初から私のすべてを見透かしている。
「女子にモテまくって、うちの役員まで狂わせてさ。面白いお遊びだけど、これ以上は色々と危ねえんだよ」
律先輩の長い指先が、すっと私のブレザーの襟元へと伸びてきた。荒々しい男子の体温が近づくたびに、心臓が痛いほど高鳴り、全身の血の気が引いていく。
「お前が何のためにこんな面倒な真似をしてるのか、俺に全部話せよ。……な、紬?」
耳元で、彼に本当の名前を囁かれたその瞬間、私の頭の中は真っ白に染まった。楽しいはずだった私のハーレム生活の裏側で、この完璧な肉食系の先輩に、私は完全に魂まで掴まれてしまっていた。

