『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

「──お前、今すげえ顔してるぞ」


一ノ瀬くんが、ふっと悪戯っぽく口元を緩めた。張り詰めていた空気が一瞬で和らぎ、私はようやく自分が呼吸を止めていたことに気付く。深く息を吸い込むと、トク、トクと、早鐘を打っていた胸の動悸が少しずつ落ち着きを取り戻していくのが分かった。


「すげえ顔って何。……一ノ瀬くんのせいでしょ」 


私は小さく唇を尖らせて、そっぽを向いた。いつもの調子に戻れたことに、内心でひっそりと安堵する。

けれど、彼に掴まれたままの手首からは、今もドクドクと力強い拍動が伝わってきて、そこだけが熱を帯びたように熱い。彼は私の手を解放すると、ぽんと私の頭の上に大きな手のひらを乗せた。


「悪かったよ。でも、本気だから」

髪をくしゃりと雑に撫でるその仕草はぶっきらぼうだけど、そこには確かな優しさが滲んでいる。

男装をして「格好いい男の子」として完璧に振る舞おうと必死だった私にとって、その手の重みは、肩の荷をふっと軽くしてくれる不思議な魔法のようだった。

「……ん」

 素直に首を縦に振るのが気恥ずかしくて、私は小さく声を漏らすことしかできない。

女子に囲まれてチヤホヤされるハーレム状態は、確かに私の理想だった。でも、正体がバレる恐怖と隣り合わせの毎日は、思った以上に私の心を摩耗させていたのだ。それを一ノ瀬くんは見抜いて、こうして私の逃げ道になってくれようとしている。

「ほら、行くぞ。これ以上ここにいたら、お前の親衛隊に見つかって、俺が刺される」

歩き出した彼の背中を追いかけながら、私は自分のブレザーの裾をぎゅっと握りしめる。

秘密を共有する彼との距離が、また少し縮まったような気がして。これからの学校生活がどうなっていくのか、不安の中にほんの少しの甘い期待が、静かに溶け込んでいった。