『イケメンになりたい!』で始めた学校生活、モテすぎてハーレム状態!?もう戻れない...

一ノ瀬くんの切れ長の瞳が、じっと私を射抜いている。

そこにいつもの意地悪な光はなく、ただ純粋に私を案じるような、深い色だけが宿っていた。


「……え」 


喉の奥から、間抜けた音が漏れる。

男装がバレて以来、彼にはいつも振り回されてばかりだった。からかわれ、弱みを握られ、主導権を握られ続けてきた。だからこそ、今向けられている剥き出しの真剣さに、どう反応していいのか分からなくなってしまう。

差し伸べられた彼の大きな手のひらが、視界の中で微かに揺れた。 

それはまるで、私が無意識に周囲へと発していた小さな救難信号を、彼だけが正確に拾い上げてくれたかのようだった。


学校生活が変な方向へ拗れ始め、女子からの熱視線や周囲の不穏な空気に押し潰されそうになっていたのは事実だ。でも、それを誰かに頼るなんて選択肢、私の頭には存在しなかった。


「何、言ってるの。私は別に、何も……」 


精一杯の虚勢を張って、いつもの『蓮』としての男前な笑みを浮かべようとする。

けれど、引き攣った唇は上手く形を作ってくれない。


「強がんなくていいから」 


一ノ瀬くんは小さく溜息をつくと、私の言葉を遮るようにして、その距離をぐっと縮めてきた。

ふわりと、彼の纏う清潔感のある香りが鼻腔をくすぐる。


「お前が危なっかしいのは、最初から知ってる。……だからさ、少しは俺を頼れよ」 


その言葉は、頑なに閉ざしていた私の心の隙間に、驚くほど優しく染み込んできた。

イケメンになりたくて始めた、嘘だらけの毎日の中で初めて、本当の自分を見つめ、守ろうとしてくれる存在の温かさに、胸の奥がじんわりと熱くなっていく。

激しく鳴り響く鼓動は、恐怖からなのか、それとも別の感情からなのか、今の私には判別がつかなかった。